一人目の花嫁

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 三日月果穂が自動車事故に遭った数日後、内部告発での部長が社内不倫による懲戒解雇の処分を受けた。 「人事部」 「そう、私の携帯電話番号を閲覧出来る人よ」 「内部告発をした人は」 「関口菜々緒だと私は思っている」 「どうして」 「失敗したからよ」 「失敗」 「あの走り去った車の運転手の顔には見覚えがあるの」 「それって」 「私の上司によく似ていたから」 「どうしてそんな事をしたんですか」 「不倫をバラされたく無かった」 「けれど告発された」 「関口菜々緒は人の弱みにつけ込んで嫌がらせをする。自分の手は汚さないの」 「あ」 「思い当たる人がいるのね」 「はい」 ーーーーーー 「私、もう二度と万引きはしません」 ーーーーーー  夏帆の脳裏には申し訳なさそうに会釈する瀬川香保の姿が浮かんだ。 「夏帆さん」 「はい」 「これを見て」 「なんでしょう」 「あなたが退勤した後、受付の整頓をしていて見つけたの」 「拾得物一覧表」 「一ヶ月前、シルバーのGalaxy(携帯電話)が落とし物として届けられているの」 「Galaxy」 「受取人欄の印鑑は関口」 「関口菜々緒の携帯電話はグリーン系でしょう」 「ご存知なんですか」  三日月果穂の手元に置いてあったiPhoneはペールグリーン、関口菜々緒は色の好みまで模倣していた。 「まさかとは思うけれど、大塚さん、携帯電話を失くしていない?」 「は、はい、結婚式の少し前に落としたと言っていました」 「偶然か必然か関口菜々緒が手にしたのね」 「暗証番号は」 「大塚さん、暗証番号は恋人の生年月日を設定するのよ」 「・・・恋人」 「あぁ、ごめんなさい、でも終わった事だから」  三日月果穂の左手の薬指にはプラチナの指輪が輝いていた。 「そ、そうなんですね、おめでとうございます」 「あなたのよく知っている人よ」 「・・・・え、誰でしょう」 「彼は気が早いの」 「・・・・!」 「そう、経理部の山口よ」  三日月果穂は下腹に手を優しく撫でた。 「本当に気が早いの、赤ちゃんがいるの」 「ああ・・・・!」 「どうしたの」 「私の結婚のお祝いにベビー用品を頂きました!」 「本当にお馬鹿さんね」  一人目の花嫁、三日月果穂は新しい一歩を踏み出していた。 「それで大塚さんはご自宅にいらっしゃるの?」 「それが出張でいないんです」 「金沢にはいつ帰るの」 「今夜、21:15前後の新幹線です」 「それならこの部屋で待った方が良いわ、会社を辞めた関口菜々緒は何をするか分からない」 「え」 「気を付けて」 「はい」  夏帆は金沢駅を見下ろす3030号室で洸平の帰りを待つ事にした。 お疲れさま 既読 お話ししたい事があります 既読 ホテル日航金沢3030号室で待っています 既読
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