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真相
北陸新幹線が金沢駅のホームに到着し、黒い人影が駅のコンコースから彼方此方へと散って行く姿が見えた。歩行者信号機が赤から青へと変わり、車の赤いテールランプが点滅する。夏帆はベッドの上で膝を抱えて洸平がその扉をノックするのを待った。
コンコンコン
夏帆は扉に駆け寄ってドアノブに指を掛けたがその動きを止めた。
(ちゃんと、ちゃんと確かめなきゃ)
息を吸って深く吐く。
「洸平さんですか?」
「当たり前だろう」
「誰もいませんか」
「夏帆、なにを言ってるんだ」
夏帆は洸平の名前を確認して鍵を開けた。
「夏帆!ただいま!会いたかった!」
「・・・・・・!」
カチャン
洸平は満面の笑みで夏帆を抱きしめると忙しなく革靴を脱いでそのままベッドに倒れ込んだ。見つめ合う間もなく口付けの雨が降り注ぎ、夏帆は甘い声を漏らしてしまった。はっと我に帰る。
「や、ちょっと、洸平さん!違うの!」
「なにが違うの」
「塩おむすび二個で誤魔化さないで下さい!」
「美味しかった?」
「美味しかったです」
「なら良かった」
「良くないです!」
その夏帆の厳しい目に洸平は息を呑んだ。
「洸平さん、座って下さい」
「・・・・はい」
気不味い空気に包まれながら、夏帆は正座し、洸平は胡座をかいてそれぞれのベッドに向かい合って座った。
ぎしっ
「どこから説明したら良いのか分かりませんが」
「うん」
「洸平さんは人事部の三日月さんと結婚の約束をされていたんですね」
ぶっ
その名前を聞いた途端、洸平は慌てふためき「言うタイミングが無かったんだ」「夏帆が嫌がるかと思って」と幾つもの言い訳を並べ立てた。
「それは良いんです」
「そうか、良いのか、良かった」
「ーーーーーー!」
安堵したのも束の間、睨まれた洸平は背筋を正した。
「この部屋は三日月さんがチャージして下さったんです」
「な、なんで!?」
夏帆は三日月果穂から聞いた事をそのまま伝えた。
「そうか、全部聞いたのか」
「はい」
「洸平さんはその犯人が誰か予想が付いていたんじゃないですか」
「なんとなく」
「菜々緒さんですか」
「その可能性は高いと思う」
次に夏帆は携帯電話の画像フォルダを開くと瀬川香保と洸平が並んでラブホテルに入る寸前の姿を見せた。それを見た洸平は慌てふためき「これは違うんだ」「ホテルには入っていないんだ」「なにもしていないんだ」と幾つもの言い訳を並べ立てた。
「それは良いんです」
「瀬川香保さんともお会いしました」
「会ったのか!?」
「はい、万引きをしていたという事もお聞きしました」
夏帆はスゥと息を吸った。
「洸平さん」
「な、なに」
「もう一度お聞きします。これは誰と誰ですか」
夏帆はニューグランドホテルのベッドの上で絡れあう男女の脚の画像を指差した。
「あーーーー、それは」
「それはなんですか」
「それは」
「菜々緒さんですよね」
「ど、どうして」
「このフットネイル、菜々緒さんの手のネイルと同じデザインです」
洸平は夏帆から目線を逸らして黙り込んでしまった。
「やっぱり菜々緒さんとセックスしていたんですね!」
「それは」
「如何して三日月さんの事を危険な目に合わせた菜々緒さんとそんな事をしていたんですか!私には理解できません!」
「・・・・・」
「菜々緒さんは本当にまたいとこなんですか!」
洸平は額に手を当ててため息を吐いた。
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