最終話 永遠なる想い

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ

最終話 永遠なる想い

 終戦が近づいていた。 「美鈴、足はどう?」 「お母さん、最近腫れてきて。」 「痛みはあるの?」 「とても痛いの。歩くのもつらいの。」 「先生、美鈴の足はどうですか?」 「この前、話したとおりです。残念ながら……」 「先生……」 「最初から、わかっていたことですから。」 「わかりました‥‥…」 「美鈴、消毒を続けよう。そうしたらよくなるよ。」 「はい、お母さん。」 「消毒してよくなれば、明さんに会えますよね。」 「そうね・・・」   昭和20年8月5日  「美鈴、手紙がいくつか届いているわよ。吉田さんという人よ。」 「いつ来たの?」 「今日、届いたよ。早く見せて。」 藤井美鈴様 たまには美鈴さんから手紙が来ないかな。 なんてわがままだよね。 手紙がくれば元気な証拠だけど心配かな。 でも美鈴さんは安産型だから大丈夫か。 また怒られるかな。 でも十分スマートだよ。 昭和20年7月30日 吉田明 どうして。 今頃、明さん。 今から手紙を書きますね。 吉田 明 様 明さん。 ごめんなさい。 手紙が届いてなかったの。 明さんのことは。 いつも頭から離れられません。 お元気にされていますか。 私は元気で仕方ありませんよ。 あまりにも元気がありすぎて。 明さん、約束ですよ。 早く帰って来て下さい。 待っています。 また、自転車に乗せてくださいね。 私のことは心配しないでね。 昭和20年8月10日 ヒュー ヒュー ガーン ドドン   「藤井さん、早く。」 「いつも迷惑しているんですよ。」 ヒュー ヒュー ボワーン   「お母さん。いつもごめんなさい。」 「大丈夫よ。」 「お母さんがおんぶしていくから。」 「困るよ、藤井さん。」 「お母さん、足は治るの。」 「治るわよ……痛みはどう?」 「痛いです。」   ヒュー ヒュー ヒュー ガガガーン 「早く防空壕へ避難しましょう。」 「はい。」 「藤井さん、もたもたしていたら困るよ。」 「先生から聞いたけど足は治らないんだってな。」 「ええ、お母さん。そうなの?」 「ちがうわよ。美鈴。」 「お母さん、本当の事を言わなきゃ。命は大丈夫らしいけど……みんなの足手まといなんだよ。本当に困るよ。」 「お母さん……どうすればいいの……明さん……」 明は美鈴を想う。   美鈴さん。 本当は行きたくないよ。 君のもとへ帰りたい。 翼がいくつでもほしい。 若さゆえに時の流れに飲まれ志願してしまったことを後悔しているよ。 なぜ志願してしまったのだろうか。 約束しておきながら。 君は時をを待てなかったね。 でも君を守るために出撃するよ。 出撃前夜は君の安らかな眠りに。 会いにいくよ。 必ず会いにいくよ。 美鈴は明を想う。 明さん。 私の傷はいいの。 でも明さんに会うことができないかもしれません。 それがなにより悲しいです。 ごめんなさい。 本当に御免なさい。 あれだけ約束したのに。 でも足は化膿しつづけてどうなるのかわかりません。 明さん、もう歩けないかもしれません。 弱音をはいたらだめですよね。 こんな事をいったら明さんに。 怒られますね。 あの広場で結婚式をあげる。 そういいました。   だから。 明さんを待ち続けます。 必ず待っていますね。  明の精神状態は限界を通り過ぎていた。   美鈴さん。 最初に出会ったのはあの広場だったね。 君は財布を落としたけど。 もしかしたら僕の事も、もう落としているんじゃないかな。 そんな事をいうなよ。 お弁当にオレンジジュースはないよな。 かわいかったな。 美鈴の精神状態も限界を通り過ぎていた。 明さん。 明さんが、スマートな人がいいって。 言ったでしょ。 本当に私もスマートになりたくて。 あれから、少しずつね。 ご飯を減らしていったの。 少しはスマートになってあげたのに、知覧出会った時に気づかなかったのは失礼よ。 でも、明さんは今よりスマートになったら駄目よ。 美鈴よりスマートになったら怒るからね。 お弁当もいっぱい作るから。 食べてね。 食べない時は無理やり食べさせてあげるから。 でも今は無理やりにでも食べさせてあげたい。 お腹すいてるでしょ。 明は少し冷静さを取り戻した。 「吉田少尉。出撃前の心境はどうか?」 「はい、この国のために命をささげたいと思っております。」 それより、本当は美鈴に会いたかった。   「散りゆく者として。何か言い残しておきたいことはないか。」 「はい、できるならば、私には婚約者がおります。約束の場所で会おうと伝えていただけないでしょうか。」 「もう、会えないのだぞ……わかった……散りゆく君ゆえに必ず約束を守ろう。君は勇敢だ。心意気がすばらしい。見事な戦果を期待しておるぞ。別れの盃をしてくれ。」 「ありがとうございます。」 遂に時は訪れた。   「整備は整いました。」 それでは、美鈴さん 今から出撃するよ。 美鈴さんを想いながら出撃するよ 楽しかったね。 幸せだったよ オレンジジュースが飲みたかったな。 僕は今は空の上にいるよ。 もうすぐアメリカの空母が見えるはず 美鈴さん、待っていてね 美鈴さん 美鈴さん・・・ ダダダダダダダダダ グワーン 美鈴さん、今日はお弁当を作ってきてくれたんだね。 はい。 オレンジジュースがあるじゃないか。 はい。 お弁当にオレンジジュースが合うね。 よかったです。 美鈴さんの作るお弁当が一番美味しいよ。 ありがとうございます。 よいしょ。 よいしょ。 キャ、揺れます。 大丈夫だよ。 着いたよ、ほら。 白い波がきれいだったね。 本当にそうでしたね。 まるで僕達を歓迎していたね。 浜辺を二人で走ったよね。 はい。 そら。 明さん足が速いですね。 美鈴さんがいたからだよ。 美鈴さんといっしょにいてくれて僕は幸せだった。 海と美鈴さんが溶け込んでみえるよ。 美鈴さんと出会えてよかった。 これから、いつまでもそばにいてほしいよ。 美鈴さん。 明さん。   基地にて    「偵察機より報告いたします。」 「第29振武隊は、全機銃撃により・・・」   「わかった、ご苦労。」 「よくやった君たち。」    「吉田少尉率いる・・・」 「見事でした・・・」   「わかった。」   東京では大規模な空襲が行われていた。 「空襲だ。みんな早く。藤井さんなにを、もたもたしてる。」 「申し訳ありません。」 「もう、みんなに迷惑がかかるんだ。どうかしてくれ。これ以上、一緒に行動できない 「どういう事ですか?」 「美鈴さんは防空壕で過ごしてくれ。」 「食べるものがないじゃないですか。みんなの足手まといになるからね。残念だが……」 「それでは私もここにいます。」  美鈴の母親は精神的にも肉体的にも限界であった。自宅まで帰る力がなかったのだ。それ以上に暗い防空壕の中に美鈴を一人置いておけるはずがなかった。 「食べるものは一切ないのだぞ。」 「この子だけおいていく訳にはいけません。」 「申し訳ないがそういうことだ。」 美鈴と母は灯りのない防空壕の中で過ごすことになった。 「美鈴、大丈夫。」 「お母さんだいじょうぶよ。お話しよう。」 「いいよ。」 「お母さん、私が小さいころはどんな子供だったの?」 「おてんばさん、だったよ。」 「本当?」 「ああ、そうだよ。生まれた時は色白でね、健康な子だったよ。」 「お母さん。こんな話をしていたら大丈夫よ。また、空襲があったら、みんな来るでしょ。」 「そうよね……」 「空襲も最近は多いからね。親切な人は食べものを持ってきてくれるよ。」 「そうよね。」 「お母さん歌を歌っていい。」 「ああいいよ。美鈴はあいかわらず上手ね。」 「お母さん、朝がきたね。」 「美鈴おなかが空かない?」 「大丈夫よ。もう少しやせないといけないから……ちょうどいいかしら。」 「だれか好きな人がいるのかい?」 「はい、お母さんには内緒にしていたけど婚約者がいるの。明さんという人よ。同級生で身長が高くてハンサムなの。」 「そうかい。」 「婚約旅行にも行ったの。その明さんに。その明さんに……スマートになったほうがいいよ。そう言われたの。だから、ご飯食べない方がいいの。」 「そうかい・・・」   「お母さん、朝がきたのね。」 「お母さん少しだけ足が痛いの・・・」 「薬はないのかしら。」   「ないのよ。」   「大丈夫よ。」   「明さんは今はどこにいるの・・・」   「お母さん、朝がきたね。」 「お母さん、傷がとても痛いの。」 「お腹もすいたけど・・・」 「お水が飲みたいの・・・」     「そうね・・・・・」         「お母さん。」 「もう朝なのかな?」 「光が差し込むはずだけど見えないよ。」       「お母さん。」 「どうしたの、返事して。」  「どうしたの・・・・・」   「また朝なのかな。」 「お母さん。」   「お母さん。」 「お水が飲みたい・・・・・」 「お母さん」 「足がとても痛いの・・・・・・」 「お医者さんはいないかしら。」   今日は光が見えた。 朝かな・・・・・   ヒタ・ヒタ・ヒタ   お母さん お水があるよ・・・・・・・         お母 さん スマートになって 明さんにほめられるかしら・・・         お母 さん 目の 前にね 明さん が いる の・・・・・・       明さん 助けにきて くれ  たよ       ありが と う       明 さ ん     あ き ら さ  ん 「お、あのベンチに座っていたじいさん。」 「突然、若返ったぞ。」   「おい、きれいな女性が来たぞ・・・」 「美男美女じゃないか。」       美鈴さん遅かったじゃないか   ごめんなさい   スマートになったね     ありがとうございます    今日は結婚式だね    はい    はい、美鈴さん 両手をだして    ほら     キャ 目が回ります   美鈴さん 明さん   やっと会えたね はい   そんなに強く抱きしめてくれてくれたら痛いです ありがとうございます   自転車で帰ろう   完
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!