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「そういえば、この子は何食べるの?」
女が俺を見る。
俺たちは初めて目を合わせた。
「普段はペットフードだけど時々野菜食べたりするな……あ、あとたまに幼虫も食べる」
「うわっ、聞かなきゃよかった」
男の発言に女は顔を顰めていたが、本当に不快に思っているようには見えず、むしろ楽しんでいるように見えた。
両手を合わせ、箸を手に取る男と女。ついさっき「おなかいっぱい」と話していた女は、先ほど文句を言ってた大根と人参を美味そうに頬張っている。一回、もう一回と、箸は女の口へ野菜と豚肉を運んでいく。それから間髪入れずに深皿の中のスープが飲み干されると、トゲの取れた満足そうな顔が姿を現した。男もそれを満足そうに眺めていて、空っぽになった女の皿に『おかわり』をよそってやっていた。
腹が満たされる。
余計な隙間が埋まる。
この鍋を食べ終えた後に残ったものこそ、彼女が求めていた何かかもしれない。
【完】
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