ハリネズミ食べていい?

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* * * 「はい! お待たせー!」  その掛け声とともに、手袋をした男が鍋を運んでくる。 「転ばないでよ?」  女は男の通るであろう道に障害物がないか入念にチェックをしている。テーブルの上にあったパソコンや書類は片付けられ、中央には鍋敷きがセットされていた。その後、鍋は無事に鍋敷きの上へ。白い湯気が立つ鍋の中は、金色のスープをベースに、豚肉と様々な野菜がぎゅうぎゅうに詰められている。 「おなかいっぱいなんだけど……」 「入る入る。ほとんど野菜だもん」  そう言いながら、男は右手に持ったおたまで鍋をかき混ぜた。 「いやー、結構時間かかっちゃったな……もうちょっと早く出来上がる予定だったんだけど……」 「普通さ、根菜を先に調理するよね。火、通りにくいから」  女に指摘され、男の手が止まる。奇しくも、問題の大根と人参をおたまで掬ったところだ。 「それはごめん。喋りながらやってたら順番間違えた……電子レンジがあったおかげでなんとかなったけどね。電子レンジ、超有能。電子レンジさまさま」  男は白い深皿へ根菜を盛り付ける。ひと通り具材を掬い終えると、今度はスープだ。男は細心の注意を払いながら、おたまを鍋の中へ入れた。 「電子レンジさま」  女の口から、またもや突拍子もない言葉が飛び出す。男はこれまた間抜け顔で女を見ると、女の頬の筋肉が少しだけ持ち上がった。 「電子レンジ、さまさま」  ポカンと開いた男の口から「ふふっ」と息が漏れる。 「うん。電子レンジ、さまさま」  男はふたたび鍋を見る。気を抜いていたら、おたまの中に白菜と玉ねぎが侵入している。男は悩んだが、最終的に「ま、いっか」と呟きながら女の皿へ盛り付けした。
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