恋愛にはならない

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『間もなくドアが閉まります、ご注意下さい』  アナウンスの声に後押しされるように電車に乗り込んだ私は、憂鬱な気持ちのまま車内でドアが閉まるのを待った。  雪の日の電車は気が重い。理由は、まだ子供の頃に端を発する。  長野の田舎で育った私には、冬に雪が降ることなど日常茶飯事だった。その日、私は友達との約束で電車で遊びに行った。友達は私の乗る駅よりも六駅先のところから乗る。私の住む村はそれだけ過疎のところだった。ローカル線で六駅とはなかなかの距離である。  その日は前日から大雪で、いつにも増して町は真っ白だった。大粒の牡丹雪。しかし、帰りには雪も止み日差しも出てきて、足場の悪い中でも風が冷たくても、陽光の暖かさに救われた気持ちで岐路を辿っていた。  電車に乗って、友達と別れて、そうして家のある駅に向かう途中のトンネルを抜けたすぐ先で電車が止まった。 「え、なに?」 「なんかあったの?」  そんな声がまばらな車両の人たちの中から聞こえてくる。前にもシカを轢いたとかで電車が止まったことがあったので、そんなもんだろうと思っていた。しかし、 『当車両は、雪崩のため運行を見合わせております』  というアナウンスがあり状況は一転した。当時まだ携帯電話というものを持っていなかった私は親に連絡することも、友達と連絡を取って気を紛らわすこともできなかった。唯一、一緒に撮ったプリクラを眺めることくらいしか時間を潰す術がなかった。  何時間も、いつ運行が再開するのか分からない恐怖。閉じ込められた閉塞感。誰もいない孤独感。そういったすべてに覆われて、外はまた雪がぱらつき始めていて、雪の日の電車が怖いものへと変わったのだった。  あれから、雪の日の電車は苦手だ。いつになく気落ちしてしまう。今はこんなにも人がいるのに、孤独感が押し寄せる。閉塞感、圧迫感で気が狂いそうになる。もう一駅待てば。その一心だった。 『次は、大宮、大宮――』  そのアナウンスで、すこし胸が軽くなるのを感じた。  一斉に乗客が降りていき、また新たに人が乗ってくる。やっと、大宮に着いた。そう思ったときだった。
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