人気者

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 ――2年B組放課後 「ユリ、危ない男がいたら言ってよ。私が絞めてあげる」  柔道部のエース、柔道子(やわらみちこ)が手を振って教室を出ていく。 「私も毒殺してやるわ」  学年一の秀才、薬師麻衣(やくしまい)は化学クラブへ向かった。 「ありがとう」  高嶺百合(たかみねゆり)が微笑む。クラスの男子が全員告白し、撃沈したといわれる美女だ。  羨ましい。……文子は、人気者の百合を横目に席を立った。その時、背後から声がした。 「相談があるの」  百合に声をかけられたのは意外だった。彼女とは挨拶する程度の関係だった。  2人は窓際に移動する。サッカー部やテニス部が準備を始めているのが見えた。 「これが届いて」  百合が出したのは手紙だった。 「見て」 「え?」  他人の手紙を見る趣味はないけれど、人気者の依頼を断るわけにはいかなかった。  1通目は柔道部の部長、加納(かのう)からのものだった。 【好きだ。付き合ってくれ!】  清々しいまでに単刀直入、だけどデリカシーがない。  もう1通は化学クラブの部長、白金(しろがね)のものだ。 【……僕が水素なら君は酸素、僕が触媒なら君は光】  突っ込みどころ満載の告白だった。 「今時ラブレター」 「シッ!」  百合が白い手で文子の唇をふさぎ、視線を後ろに向けた。その先には耳を澄ます陰野乙女(かげのおとめ)の背中があった。彼女が百合を愛しているのは公然の秘密だ。 「加納先輩は道子の片思いの相手なの。白金先輩は麻衣の元彼」 「ハア、それで私に何か?」 「彼女たちを傷つけたくないの。乙女にだって悪いと思うし。だから、皆があきらめられるように恋人を作ることに決めたの。それで門川さんにはこれを」  彼女が宛先のないピンク色の封筒を差し出した。  私?……心臓がバグバグ鳴った。 「サッカー部のキャプテン、アル・全珍(ぜんちん)に渡してほしいの。この前、話していたから。知り合いなのよね?」  あら、と拍子抜けした。 「でも先輩は……」アルがDV男なのを知っている。  百合のぐちゃぐちゃの人間関係に困惑し、同情するばかり。さて、どうしたものか?
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