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霧の穴の家
「た、助かった……」
疲労はピークだったが、家を見た途端小走りに駆け寄る体力は残っていた。
近付いてみるとその家は、テントよりは大きいが一軒家にしては小さい。木こりが休憩用に作ったものだろうか?しかし掘立小屋や物置小屋というには壁は黄色く塗られ、赤い屋根や水色の扉のがカラフルで美しい。
不思議に思いながらも小さな家の玄関扉をノックする。
「ごめんください!どなたかいらっしゃいませんか?道に迷ってしまったんです」
中から返事はない。
一旦、玄関扉から少し離れて家全体を見渡してみた。
小綺麗に手入れされた家の煙突からは煙も上がっている。食べ物を調理している時の美味しそうな良い匂いも漂ってくる。
ということは、誰かがいると思うのだが。
もう一度ノックしようと扉に近付いた時、声がした。
『お名前をおっしゃってください』
男とも女とも区別のつかない和音のような不思議な声。
「トーリといいます」
不意を突かれて慌てつつも、名前を名乗った。本名はもっと長いけれど、皆からそう呼ばれている。
途端、水色の玄関扉がガチャリと音を立てて少し開いた。
どんな人物が出てくるのだろう。
(頑固そうな怖そうな人だったらどうしよう)
と、少しドキドキしながら待った。
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