1 ポスト・温暖化時代

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1 ポスト・温暖化時代

「やっと見つけた。君は日下部真琴の息子だな」  少年が振り返ると襤褸(ボロ)をまとった枯れ木のような老人が、鬼気迫る様子で目をぎらつかせていた。手入れのされていない白髪の蓬髪、落ち窪んだ瞳に抜け落ちた歯。〈ポスト・温暖化時代〉高齢者の見本のような男だ。 「誰だよアンタ、藪から棒に。確かに俺は日下部だけど」 「探したぞ。君に会うために日本中を駆けずり回ったんだ」 「気色悪いじいさんだな。なんで俺の追っかけなんかやってんだい」  日下部少年は屈んだ姿勢のまま、片時も手を休めない。つい先ごろここいら(旧東京都)を営業管轄圏としてしのぎを削っていた民間裁判所(シビリアン・コート)の二大巨頭が激突し、多くの死者を出していた。死体はボロや食料を満載するれっきとした資産である。彼のような死肉漁り(スカベンジャー)にとっては書入れ時なのだった。 「君たち若者がいまのような悲惨な境遇に陥ったのは、すべてわたしたち環境保護原理主義者(エンバイロメンタル・ファンダメンタリスト)のせいなのだよ」  老人は今日も今日とて吹き荒ぶ吹雪のなか、ぶつぶつと繰り言をのたまっている。 「どうでもいいけど、口動かしてる暇があったら手伝ってくれよ。3日もまともに食ってないんだぜ」 「すまない、本当に……すまない」  しまいに老人は泣き出す始末である。日下部はため息を吐いて、かぶりを振った。「どうしたってんだよ、いったい」 「聞いてくれるか、わたしの懺悔を」 「勝手にしゃべったらいいよ、もう」  老人は問わず語りに話し始めた。
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