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69.救世主
国の存亡の危機。
それに立ち上がったスタンリー公爵家に対して民衆は湧きあがりました。まさに救世主の如く現れたのですから歓迎されるのは当然なのかもしれません。その最たる理由が私達が持参した物資が目的であったとしてもです。
「まさか……新しい国王が傍流の赤子とは……全く考えませんでした」
「仕方なかろう?散り散りになった王族を探し当てた結果じゃ。陛下と王太子殿下は亡命途中で山賊に遭遇して亡くなられておる。本家筋は暴徒共に私刑されてしまったしのぉ。傍流から次世代の王を担ぎ上げるしかなかったんじゃ」
「母君も産褥で亡くなった、とお聞きしましたけど……」
「王都から命かげの脱出じゃったようでのぉ。可哀想に」
どこまで本当の事なのか分かりませんが、詳しくは聞きません。
私達に都合のいい展開ばかりですが、決して詳しく知ろうとは思いません。祖父はニコニコしながら嬰児を腕に抱いています。時折、「良い子に育つのですぞ」とか「良き王になられるのですぞ」とか言ってますが、私には「スタンリー公爵家に都合のいい王に育てる」と聞こえてしまうのです。常々、「儂も歳を取った」と洩らす祖父ですがあの調子では腕の中の嬰児が成人するまで生き長らえそうです。
「随分、軽い神輿になりそうですね」
「ふぉふぉふぉ。それを重く見せるのが儂らの仕事じゃ!これにはコツがあるからのぉ……おいおい教えてゆくぞ」
「……ご指導宜しくお願い致します」
それ以外に何と言えばいいのでしょう。
返答は「はい」の一択しかありません。
今や王国はスタンリー公爵家が支配しています。民衆も他の貴族達もスタンリー公爵家に感謝している状態です。王都民は「救世主」と祖父を讃える始末……知らないというのは幸せな事です。どちらかと言うと祖父を始めとする我がスタンリー公爵家は「悪役側」でしょうに……。
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