雪がふっていた

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 ブーツを脱ぎ捨てると、締め付けられていた足が軽くなる。スーパーのビニール袋をテレビの前の低いテーブルに置くとガサっと音を立てて崩れた。いつもはマイバッグを持ち歩いているが、今日は遥柾(はるまさ)と外食するつもりだったから持って行かなかったのだ。  新しいコートはハンガーにかけて、クローゼットにしまう。その足で浴室に寄り、お湯を出した。お腹がとても空いていたが、パジャマと兼用の部屋着に着替えて食べたい。遥柾がいなくても、今日は休前日。のんびり楽しく過ごすんだ、と思う。いつもなら簡単なことだ。なんとなく浴槽のふちにしゃがみこんでお湯が溜まるのを眺めた。  風呂の湯はまだ溜まらない。 「よいしょ」と立ち上がり、部屋に戻る。浴槽に湯が溜まるまでの空白の時間に、シャッターを閉めてしまおうと窓に手をかけて、暗闇に立っている自分を見つけてしまった。ちょっと疲れた白い顔。遥柾といた時のままの服。 「別れようかな……」  ふと、思ってもいなかった言葉を呟いていた。小さな声だったのに、独りぼっちだからはっきり聞こえてしまった。美空はガラスの向こうの自分を見つめる。 ――遥柾はいつだって、私が合わせてくれると思っている。私がいて欲しいときには、いてくれないのに、振り返ればいつだって私がいるのが当たり前で  それなのに、「別れる」そう思っただけで、凍った空気を吸い込んだように胸の奥が悲鳴をあげた。
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