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プロローグ
ただいま、六時。もうすぐ日の出にて。
この時期の冬の朝は、空気が澄んでいる。
太陽の暖かな日差しは、冷ややかな空気に屈折し透明感が増し美しさが高まっていた。
特に、今年の冬は昨年より寒さが厳しい為か。この地域で珍しく一昨日、しんしんと雪が降った。その跡が今だに残っている中、太陽の光で反射して目の前の景色が白の世界で広がっている。
そして、この家の三男坊は眠気と格闘していた。
お気に入りの場所である屋根の上で、現在進行形で空を見上げている。
本日は、久々に夜の仕事である〈厄除師〉の依頼は無い為、のんびりと自身の時間を過ごしている真っ只中だった。
彼以外の兄弟は、それぞれ就寝している。
第三者からしてみたら厄除師の仕事が無いなら、他の夜のバイトでもやれよッ!って話しになるが……。
確かに厄除師の仕事以外も、本来はできる。
【今の彼】には現在進行形にて、できない体質になってしまった。
この家、神龍時家は街から離れていている場所に建てられている。周りは古い一軒家、民家と田んぼが広がっており、普段から空気がほどほどに澄んでいる町なのだ。
そのおかげか、昨晩の星と満月の個々の美しさが強い。自己主張が激しいくらい輝いており、小さな星が都会よりもハッキリと見える。
ーー田舎の特権であり、特徴である。
そんな田舎で勇逸の救いなのは、徒歩で三十分くらい離れたコンビニが一軒あるくらいだ。更に近くにある駅は三十分に一回の運転で電車が通過する流れなのだ。
それくらいこの町は、かなり、が付くくらい、超田舎である。
六時十分。東の水平線から徐々に、薄らと暖かみのあるオレンジ色が濃くなっていく今。
視界に入った刹那。(今日も、【賭】に勝ったッー!)と彼は心底安堵し、屋根の瓦の上に倒れるように寝っ転がった。
このルーティンを毎夜、六年行っている彼。
毎日、〈カノジョ〉が暴れないように毎夜、静かに起きている。
それは彼にとって、当たり前にしたくない日常になってしまっていた現在。
過去に一度、このルーティンに慣れる前。夜中に無意識に寝てしまった時に、取り返しがつかない事が起こってしまった。
彼が眠りの世界に深く入ってしまい、暫く。ーーカノジョは目覚めた。
あの豊かだった景色が、一瞬で〈無〉になった世界。
加害者であるカノジョは高らかに嘲笑った、雪の中で。
そしてカノジョの呪いで、強制的に〈時間を共有された〉日常。
ーー彼の人生の中で一番、悔恨をした冬。
そして、〈あの時を二度と繰り返してはいけない。絶対に〉と彼は誓った。
この家の六つ子三男坊、【神龍時 嵐】。
本日も夜の峠を越え。我慢していた眠気が一気に噴火し、屋根の上にて意識が途切れた。
これは彼の、とある雪の思い出話しである。
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