初冬

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 優輝は普段、マイペースであまり人と関わろうとはしない。それもあり、人の気持ちには疎い部分がある。  何回か友達と喧嘩して、帰ってきたこともあった。  なんでも素直に言ってしまう為、開成はぶつかることが多い優輝を心配していた。  だが、しっかりと最後には解決しているため、信用もしていた。  そんな優輝がここまで悩み、解決方法が思いついていない様子を見て、ただ事ではないと理解。 「ん-」と、唸り始めた。 「…………女性だけには限らんが、人の感情には疎いな、優輝は。だが、それはもう何年も周りから言われている事だろうし、一度も気にしなかっただろう。それに、優輝は素直に人をほめたり、良い所を見つけるのも得意。だから、ワシもそこまで気にしてはいなかったのだが……。なにか、気にする何かがあったのか?」  考えてもわからず、開成は優輝を悩ませている原因を探ろうと話を持っていく。 「姉さんに、女子泣かすの得意だよね、とか。人の気持ちを理解できない人がモテるのがわからないとか。色々ボロクソに言われた。帰ってきてすぐに言われたから本当に意味が分からなくて、さすがに頭にきた」  ぶーっと、頬を膨らませ顔を逸らし怒りをあらわにする。  こういう所は子供だなと思いつつ、開成は質問を繰り返す。 「あぁ、なるほど。それは、優輝の事を理解している神楽からしたら珍しい事だな。他に何か話はしなかったか?」  顔を逸らしつつ、優輝は神楽との会話を思い出す。  その時に、目を輝かせながら夕凪の話をしていた事を思い出した。 「夕凪姉さんが帰ってきていると言う話でものすごく目を輝かせていたよ。その話をした後に、何故か機嫌が悪くなった」 「…………あぁ、なるほどぉ。うむ、これはワシは何もしない方がいいな」  優輝から夕凪の名前に、すべてを理解した開成はうんうんと頷き腕を組んだ。  何でそうなるのと、優輝はさらに機嫌を損ねる。 「えぇ、今回は俺が悪いって事? でも、なんで姉さんにあそこまで言われないといけないのかわからないし、なにに対して怒っているのかもわからないし。もう、幸せな気持ちが台無し……」  はぁ……と、深いため息を吐き、頭を掻く優輝を見下ろし、開成は頭を撫でてあげた。 「まぁ、今回は”わからない”では済まされない事態という事だ。だが、優輝なら大丈夫だろう」 「なんで、そう言い切れるのさ」 「今までどんなにトラブルを起こしても、しっかりと解決してきただろう。今回も、トラブルをそのままにせず解決のために考え、抗い、頑張ると予想出来る。だから、言い切れるのだ」  ドヤ顔を浮かべている開成をうざいと感じた優輝は、足を踏みつけその場から居なくなった。  廊下に残ったのは、足を支え憎しみの声を漏らしている開成の姿のみ。 「まったく、はぁ……」  ため息を吐き、痛みを我慢し立ち上がる。  優輝が姿を消した方向を見つめながら、開成は頬を緩め肩を落とした。 「人の気持ちを理解できなくても、理解しようとし、関わるように努力して来たお前なら、今回も解決できるだろう。問題は、もう一人――……」
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