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優輝がいつものように学校から帰ってきて荷物を自室に置き、森へ行こうと玄関で靴を履いていると、神楽が後ろから声をかけてきた。
「優輝」
「なに、姉さん。言っておくけど、小言は聞かないよ。今は特に」
「わかってるよ、そうじゃなくて」
昨日の事もあり、後ろから呼んでいる神楽を見ようとしない優輝だったが、立ち上がる際、肩に手を置かれてしまい、無理やり振り向かされる。
強く掴まれ、少しだけ顔を歪め、神楽を忌々しく見上げた。
「いっ、たいなぁ。なにっ――」
昨日から何なんだと、怒りをぶつけようとしたが、思った以上に顔が近くにあり言葉を詰まらせた。
「え、えと、何?」
「もし、今日夕凪姉さんに会ったら伝えてほしい事があるの」
「また、夕凪姉さん……。なに?」
昨日から同じ人の名前ばかり耳にする優輝は、げんなり。
夕凪の事は好きだが、ここまで聞かされる理由が理解出来ず眉を顰めてしまう。
「時間がある時、私と会ってほしいって伝えてほしいの」
「…………? そんな事?」
「うん。私、まだ会ってないの。だから、会いたい、話したい。これだけでいいの、伝えて?」
顔を離し、手を合わされる。
別にそれぐらいならと、優輝は怪訝そうな顔を浮かべながらも了承。
その後はお互い何も言わなかったため、優輝は小さな声で「行ってきます……」と呟き、玄関を出て森へと向かった。
神楽の様子が最近おかしいと首を傾げ、唇を尖らせる。
「な、なんなんだろう。昨日から…………」
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