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昭和レトロなこの空間に、ドアチャイムが澄んだ音を響かせる。ゆっくりと開いたドアの隙間から、冷たい空気が吹き込んだ。
「いらっしゃいませ」
「いつものお願いします」
常連の多賀谷さんが、いつものようにカウンターの定位置へと腰を下ろした。
「雪はまだ降ってますか?」
「今はもうやんでいますよ」
「良かったです。これ以上積もるようなら、お店を早めに閉めようかと思ってたんです」
昨夜は特に冷えて、道路やお店の前にも雪が積もった。そのせいか、いつもよりお客さんが少ない。
マスターである私のおじいちゃんがホットコーヒーを準備している間に、多賀谷さんはカバンから本を取り出して読み始めた。散髪してすっきりした髪型が、より知的さを引き立てている。
お店の雰囲気とコーヒーを気に入ってくれて、オフの日には好きな本を持ってここに立ち寄るのが日課らしい。この時間がたまらなくいいそうだ。
「お待たせいたしました」
「ありがとうございます」
読書を一旦やめて、身体を起こし、私がコーヒーを置くまで待ってくれている。ソーサーがカウンターに触れると、コト、と鳴ったが、その音は控えめなBGMに紛れて溶けた。
「ごゆっくりどうぞ。失礼します」
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