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「いや、ならいい。家までは送るから。それですぐ帰る」 「どうしてですか?」 「俺だけで家に入るわけにはいかないだろ?それに雪が本降りになったら帰れなくなる」 「なら……泊まっていただいて構いません」 引き留めてくる様子が必死でいつもと違うので、俺は立ち止まると佐野(さの)のほうに身体を向けてみる。 ……驚いた。 佐野(さの)は至近距離から上目遣いで俺を見つめていた。途端に心臓が大きく跳ね上がる。これはいけない。 「あのなぁ。無防備にそんなこと言うな。なんかあったらどうするんだ?」 「先生なら……いいです」 大きな瞳を直視できず、思わず顔をそらした。こういう事には......稀だが遭遇したことがある。たまに生徒が、異性の教師に擬似的な恋愛感情を持ってしまうことがある。 「良くないだろ。もっと自分を大事にしろ」 「私、もう卒業して半年経ちます。私のこと異性として見てもらうことは……できませんか?私、椎名(しいな)先生のことずっと……」 途切れ途切れの声が悲痛なので、理性を保っていないと首を縦に振ってしまいそうになる。が……相手は未来ある大学生だ。 「佐野(さの)は俺にとって。自慢の教え子だよ」 努めて明るく言うと目の前の整った顔が歪み、大きな瞳から涙がこぼれた。
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