彼は変わり者

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「雪が降ると思い出すなぁ」 「え? 何を?」 * * *  昨日は一日中止むことなく雪が降っていた。  今朝は父も母も早めの仕事があるからと、あたしを一人残してさっさと家を出て行ってしまった。  休みの日だってね、部活はあるのよ。  学校までね、行かなきゃないの。  自転車で行けば、まぁ、十五分くらいかな。最後の地獄の坂道がなければ、たぶん五分は短縮できるだろうに。まぁ、仕方ない。  家から近くて通いやすくて、自分の学力レベルに見合った高校といったら、ここしかなかったのだから。  だけど、今は冬で大雪。歩いたら、多めに見ても三十分はかかる。雪道は歩きにくいし。  リビングの窓から外を見ると、天気は快晴だったからそれがせめてもの救いだ。ただし、気温は低い。圧雪された道路の雪を見て、ため息を吐き出した。  壁の時計を見上げれば、部活の集合時間まであと三十分。 「ヤバい、急がなくちゃ!」  ぼうっとしてホットココアを飲んでいたあたしは、残りをぐいっと飲み干すと、慌てて食器を下げた。  コートを羽織り耳まで覆う様に大判のマフラーを巻きつける。足元はスカートにハイソックスのみ。ふかふかのブーツを履いているけど、空気に触れる肌は冷たいを通り越して痛い。  上半身は完全防備なのに、下半身の防寒がアンバランス過ぎる。だけど、タイツはジャージに着替えた後にあのなんとも言えない張り付く感触が気持ち悪くて履きたくないし、スカートの下にジャージを履いて歩くのもなんか、嫌だ。  だったら、我慢するしかない。  毎日のことだしもう、慣れている。  あたしは真っ白な歩道を早足で進む。  悴むほど冷たくなった手はポケットに突っ込んでいる。スマホはカイロじゃないけど、なんとなく握りしめているとあったかい様な錯覚を覚える。  吐き出す真っ白い息。鼻先が冷たい。  ふと、学校の坂へ曲がる途中で、学ランの男子が一人歩いているのが視界に入った。  真っ白な雪景色の中に、黒い学ランは目立っている。おまけに、首元にはえんじ色のマフラーが丁寧に巻かれている。さすがに手はズボンのポケットの中だけど、どう見たってあれは寒い。  なんでコートとか上着を着てないの?  同じ方向に進む彼は、あたしと同じ高校の生徒のようだ。
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