誕生日 8話(完)

1/1
57人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

誕生日 8話(完)

「後で、一緒に露天風呂に入ろ?」 「ああ」 「サウナも。すごく楽しみ」 「蘭は、本当にサウナ好きだよな」 「左京さんも好きだろ?」 「蘭のおかげでね」 蘭に付き合ってサウナに入りだしてから、左京はすっかりハマってしまったらしい。 蘭は、左京と同じ趣味が増えたことが嬉しかった。 「左京さん。新婚旅行で、最後にフィンランド行くだろ?」 蘭の言葉に、左京がうなずく。 「あそこ、いっぱいサウナあるから、楽しみにしてて」 「マジで?」 左京が声を弾ませる。 蘭も笑いながら、左京の顔をのぞき込んだ。 「左京さん、ぜったい気に入ると思う」 「楽しみだな」 「ふふ」 「ありがと、蘭。でも、そっちは任せきりで、ごめん」 「何言ってるんだよ。オレが行きたいって言ったんだし、結婚式もあるんだから」 結婚式はおまけみたいなもんだけど、新婚旅行は本当に楽しみだ。 どこへ行こうか、考えるだけでとてもワクワクする。 今の忙しい時期が終われば、幸せな時間が待っているのだ。 「蘭」 呼ばれて顔をあげると、キスが降ってきた。 「んっ、左京さん」 何度もついばむようにキスをされて、くすぐったい。 けど、蘭を見つめる左京の瞳が優しくて、愛しさがあふれてくる。 「左京さん、好き」 「俺も。蘭が好きだよ」 蘭の言葉に、同じ気持ちを返してくれる。 大好きな人が、すぐ側にいて、蘭を愛してくれるのだ。 毎日左京と一緒に居られて幸せだけど、誕生日の特別感も、くすぐったくて幸せ。 「オレ、今までで、いちばん幸せな誕生日かも」 左京に「ありがとう」と伝えると、またぎゅっと抱きしめられる。 「蘭。誕生日おめでとう」 「ありがと」 「来年も、再来年も……毎年こうやって、蘭のお祝いさせてくれる?」 左京が優しい声で、蘭に請う。 これからもずっと側にいたいと、左京は言ってくれてるのだ。 左京の想いが伝わるたびに、喜びで胸の奥が熱くなる。 「うん」 蘭がうなずくと、左京がこめかみにキスをした。 明後日まで、左京と二人きりで過ごすのだ。 温泉も、サウナも、ご馳走も楽しみ。 だけどそれ以上に、左京との甘い時間に胸が高鳴る。 「左京さん」 「ん?」 「三日間は、左京さんを独り占めできるんだよな?」 肩に頬を寄せて甘えると、左京がフフッと笑った。 蘭の髪を梳くように撫でて、額にキスを落とす。 「もちろん。蘭が望むなら、何でも叶えてあげる」 甘い声で、耳元に囁かれる。 胸がドキドキするくらい、カッコいい。 蘭は顔をあげて左京にキスすると、普段はしない、おねだりをした。 「じゃあ……好きなだけお酒飲んでも、良い?」 ピタ、と左京が笑顔で固まった。 「左京さん?」 「……うん。もちろん良いよ」 「ほんとに?」 疑いのまなざしで左京を見あげる。 なぜなら、家でお酒を飲んでいても、途中で「飲みすぎだよ」と言って止めてくるのだ。 たまには蘭だって、思いきり好きなだけ飲みたい。 誕生日だし、せっかくこんな素敵なヴィラに泊まるのだから、少しくらい羽目を外したかった。 左京が小さな声で「理性持つかな…」と呟いたが、よく聞こえなかった。 「左京さん? なんか言った?」 「いや……蘭の好きにしていいよ?」 「途中で、止めたりしない?」 「止めないって。蘭が好きなワインも用意したから、楽しみにしてて」 「やった!」 左京の言葉に、蘭は満面の笑みを見せた。 左京はワインも詳しいし、勧めてくれるお酒はどれもおいしいのだ。 「ありがと、左京さん」 「どういたしまして」 微笑む左京は、柔らかな瞳で蘭を見つめてくる。 眼差しだけで「愛してるよ」って言ってくれる。 それが嬉しくて、左京の首に抱きついた。 「蘭。いくらでも甘えていいからね」 「ふふ、そうする」 これからの時間を想うと、胸が昂る。 左京さんに、思いきり甘えよう。 誕生日なら、許されるはずだ。 蘭は左京の腕に抱かれたまま、特別な日の幸せをかみしめた。 (終)
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!