卒業間近の自転車

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その日はいつも通りにふるまって、いつも通りに帰宅した。でもいつもと違ったのは途中でコンビニによってお菓子を買った。とびきりかわいい包装の、ちっちゃな箱。会計するときに指が震えた。気恥ずかしいのと、これを春田に渡すのだと思ったら怖くなったから。これを明日、渡す。一日遅れたけど、受け取ってほしいって。 翌日、寒さに目が覚めた。起きて身震いしてカーテンを開けて、言葉を失った。雪。東の向こうの山々から朝日が覗いて、オレンジ色に雪が輝いている。夜中に積もったのだろう、積雪5センチというところか。 「早紀、今日は学校行かないでしょ? 雪だし」 「あ……うん」 自主学習期間はもちろん登校の義務はない。こんな雪の日にわざわざ教室で勉強をすることはない。そもそもこんな雪の積もった朝に無理して出かけたら事故に遭う可能性もあるし。スマホが鳴る。案の定、学校からのメールだ。午前休校。 「お母さん、私、学校に行くから」 「送っていきたいけど、母さんの車、タイヤが」 「大丈夫、歩いていく」 「そう?」 春田も学校に向かっている気がした。あの電車できっと登校しているって。私は朝ご飯も食べずにすぐに出かけた。昨日買ったチョコをポケットに突っ込んで。 いつもより早く出たのは徒歩だから。あの高架橋であの電車とシンクロするためには今自宅を出ないと間に合わないのだ。 いつものスニーカーはすぐに濡れた。靴下までびしょ濡れになって、それでも歩いた。むぎゅむぎゅと雪を踏みつけるたびに春田に告白するっていう気持ちを踏み固めて。 高架橋に差し掛かる。時間は7時20分、あと3分で頂上まで登れば電車が来るはずだ。息を切らして登り切り、右方向に目を向ける。 電車は来なかった。
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