1/1
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

eb9aa7af-d46e-4704-b6fb-eba24d1edcdb ブラック企業の奴隷社員として働きつくし過労死。 来世はまともな企業に就職したいものだと、死に際にささやかに願ったものだが、目が覚めると妖精になっていた。 愛読していたファンタジー漫画の登場人物だ。 女から男に性別が変わりつつも「フィナ」の名前も、手のひらサイズも、勇者の尻を叩く役回りも漫画のまま。 勇者のお供、というか、勇者と妖精は名コンビ。 今やフィナは男になってしまったものの、そのやりとりは「夫婦漫才」と冷やかされるほど恒例。 まあ、漫才のようになってしまう原因は、主に勇者こと、ロイドのふざけた設定にあったが。 魔王打倒を志し、人人に希望と勇気を与える象徴にあるまじき、ぽんこつ駄目人間。 誰も歯が立たなかった「伝説の剣」を抜くことができた、選ばし者なれど、その動機からして不純。 借金まみれで、あろうことか「伝説の剣」を質屋に持っていくためだったという。 質屋に行きつく前に取りおさえたとはいえ、あらためて担うべき使命を教えると「いやいやいや!だったら俺はいらないから、あんた買って!」と断固拒否。 伝説の剣を抜いた者しか、その力を引きだせないし、魔王を葬ることもできない。 丁寧に説明するも「魔物に殺される―!こいつらに殺されにいかされるー!」と大泣きして地面をのたうち、断末魔のような叫びをあげる有様。 とことん情けなく、ぶざまに悲劇の被害者ぶるのに「伝説の剣をもどそうか」と見限りそうなところ。 説得に当たった神官は寛容でありつつ、頭が切れたからに、駄々をこねるロイドをそそのかした。 まずは肩代わりして、借金から解放。 だけでは、恩義もくそもなく「馬鹿なオヒトヨシめ!」ととんずらしそうなので「遊べる余裕があるほど、旅の資金の仕送りをするから」と約束。 さらに女ズキなのに、つけいって「勇者になったら、モテるよ?」と耳打ち。 とどめとして、村一の美女に「なんて、かっこいいの!魔王を倒したら結婚しましょ!」とおだてさせて。 「よっしゃああああ! 魔王を倒すまでモテまくってやりまくって、最後はペティちゃんとゴールインだぜえ!」 まんまと乗せられたロイドと、お目付け役の魔法使い、剣士、忍(全員男)の冒険がやっとスタートしたものの、順風満帆なわけがなく。 ロイドの無能ぶり、だらしなさは、想像以上だった。 戦闘では腰を抜かして「おおおお、お前ら、さっさとやっつけろよ!」と泣きながらガードしまくり。 村や町につけば、女の尻を追っかけまわし、トラブル起こしまくり。 モテないのは自業自得なれど「神官の嘘つき!」とふてくされて、隙あらば逃亡しまくり。 お目付け役の仲間は「よく匙を投げないものだ」と同情されまくり。 比例して勇者の悪評が立ちまくり。 ただ、そんな落ちこぼれ勇者の尻拭いに、日々追われる当の仲間たちは、決してロイドを非難せず、愚痴も吐かず。 人間性に問題ありまくりだとしても、紛うことなき選ばれし者だと確信してのこと。 たとえば、思いがけず強敵にでくわしたり、敵の術中や罠にかかるなどピンチになったとき。 「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」と盾に隠れる勇者を庇いながら、健闘するも仲間全員がバタンキュー。 残された勇者は体力魔力マックスなれど「道半ばで無念!」と早早、仲間は諦めてしまい。 が、すこし目を放した、その一瞬に地を揺るがす轟音が。 顔を上げると、仲間全員が必殺技を使っても、屁でもなさそうだった魔物がきれいさっぱり消失。 剣を握ったまま、突っ伏して倒れていた勇者は、相討ちしたように見えたものの、ほぼダメージなしの無傷。 なんてことが、たまにあるから、民衆は「へたれ泣き虫勇者」と馬鹿にするも、仲間は監視の目を光らせつつ、一目置いている。 なかでも、ロイドを心から慕っているのが、俺こと、妖精のフィナ。 ロイドとの出会いは、絶望的な渦中でのこと。 魔王の命を受けて、獰猛な鬼のような魔物がフィナの一族に襲いかかったときだ。 仲間たちが魔物の牙に裂かれ、噛みちぎられていくなか、母の云いつけどおり、木の深い穴に潜んでいたフィナ。 ついにはフィナ以外が死に絶えてしまい。 が、一匹たりとも逃しはしまいと、魔物らが念入りに森を見てまわり、とうとう穴に手を突っこんできて。 尖った爪先が触れそうになった、そのとき、そう、あの轟音が。 音がやんでから、外を覗いたところ、仲間も魔物も全滅。 死屍累々の真ん中に、剣を持った勇者が倒れていたわけだ。 電撃で起こして「なになになに!?俺、迷子になったんだけど!?」と号泣するのを、仲間のもとに導いてやってから、フィナはロイドにつきっきり。 あのとき、なにが起こったのかは分からないし、ロイドの記憶もない。 それでも、仲間の仇を討ってくれ、命を救ってくれた恩人と、フィナは見なして「私の命を懸けて守る!」と忠誠を誓った。 まあ、とはいえ、相手がヘタレ泣き虫勇者だから。 「もう、いい加減、盾を下げなさい!」と電撃。 「女の子を困らせるんじゃないわよ!」と電撃。 「私から逃げられると思うんじゃないわよ!」と電撃。 「仲間への感謝と謝罪を忘れないの!」と電撃。 日日、フィナなりに恩に報いているつもりでも、イジメているような形になったが。 といって、手のひらサイズの妖精のくりだす電撃なんて、静電気より、すこし強めくらい。 それしきで「この鬼悪魔魔物、魔王以上の非道!」とぎゃんぎゃんクレームする勇者も勇者。 その非難を真に受けず「ほんと助かるよ」「フィナのおかげで肩こりが治った」とむしろ仲間から頼りにされているし。 「勇者を尻に敷く、手のひらサイズのかかあ妖精」と漫画ファンの人気が高いキャラクターなわけだ。 俺にとっても愛しきキャラなれど、自分が扮するとなると・・・。 ブラック企業に洗脳され、社蓄根性が染みこんだ俺に、勇者をびしばし、びりびりと躾られるやら。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!