消した理由は

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  *  教育委員会から水面下で事実確認の連絡を受けた後、年度末を待たずして、岩田は辞表を提出した。それ以来、学校へは出てきていない。聡明な水波彩菜は、アカウントを消す前にDMの内容を証拠として保存していたのだ。どう客観的に見ても、彼が言い逃れできる要素は皆無だった。  辞表は受理されたわけではなく、あくまで校長が個人的に預かったもの、とされた。最終的な処分はこれからになるだろう。風の噂で、結婚したばかりの奥さんは家を出て行ったと聞いた。当然の結果だ。岩田の性格を考えれば、きっと彩菜との関係が表沙汰にならずとも時間の問題だっただろう。  岩田を告発した相手については校内でも校長以下、ごくごく限られた人間しか知らされていない。教育委員会が率先して、被害者のプライバシー保護に全力を尽くしている。水波彩菜も今のところはこれまでと変わりなく、むしろ従前通りいきいきと生活しているようだ。  それにしても――アツアツのホワイトソースから絡めとった焼きパスタに、ふうふうと息を吐きかけながら思う。カヴァルッチョといい、大積山といい、あの天性のスケコマシめ、誰にでも同じ手口を使っていたなんて。ワンパターンにも程がある。  一応弁明しておくが、私自身はあの男と深い関係には至っていない。なんとか一歩手前で踏みとどまった、というべきか。  まぁそのお陰ですぐに水波彩菜との関係に気づく事ができたわけで、怪我の功名と言っておくべきかもしれない。こうして美味しい焼きパスタの店まで覚えたしね。  ピロリ、と通知音につられてスマホを見ると、インスタグラムのフォローリクエストだった。見覚えのあるアイコンに、思わず笑みがこぼれる。  そうか、やっと新しいアカウントを作ったんだ。  私は嬉しくなって、承認ボタンを押した。新しくなった彼女のアカウントには、沢山のクラスメート達と笑い合う彼女の写真が投稿されていた。 <了>
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