0人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
お試し読み
今日で11月も終わりか。
なんてぼんやり思いながら、人気のない路地裏の道を歩き、帰路に付いていると。
「初めまして、藤堂朔くん。私、杉原衣と言います。四葉女学園の3年です」
眼鏡を掛け、癖のあるロング髪を靡かす女性に声を掛けられた。
すみれ色のリボンに、白を基調した清潔感ある制服を身に着けている。
「四葉女のお嬢様が俺に何かご用でしょうか?」
「単刀直入に申します。私、貴方が好きです、お付き合いして頂けませんか?」
愛嬌のある笑顔で、要件だけを述べてくる彼女。
「悪いけど、俺はアンタを知らないし、付き合う理由なんてないんで」
自分でも分かる程、冷たい物言いをしたと思う。
結羽に知られたら怒られそうだーーーー女の子には優しくしなくちゃダメでしょ、振るにしても、相手の一生懸命な気持ちを蔑ろにしてはいけません!
てな。以前、教室の隅で正座させられながら説教を受けたっけ。
「私、諦め悪い方なんです、写真部が売っていた貴方の写真を見た瞬間、一目惚れで。今日はただ先制布告にきただけですので、またチャレンジしに来ますね」
彼女はそう言い残し、軽い足取りで路地裏を抜けて行った。
*****
高校からの帰宅途中、今日で4日連続だ。
いい加減にして欲しい。
「藤堂君、何処かでお茶しませんか?私、美味しいチーズケーキの店知ってるので、一緒に如何です?」
「断る。もう良い加減に諦めてくれないか、迷惑なんだけど」
「私の事をよく知れば、藤堂君も私を好きになる筈です。だからまず、私と親交を深めましょ」
「どっから来るんだその自信は。とにかくお茶はしないし、暗くなる前にお前も気を付けて帰れ」
「藤堂くん、好きですよ」
「はいはい」
「人がせっかく真面目に告白してるのに、適当過ぎます」
「そんな俺に幻滅して諦めて下さい、杉原先輩」
俺は、四葉女学園と同じ地域にある共学校、双葉高校の二年。彼女より一つ下だ。
四葉女学園は、雑誌に掲載される程、この地域では知らない者は居ない、選ばれたお金持ちの娘さん達が通うお嬢様校だ。
うちの写真部と四葉女の写真部は裏で繋がりがある、なんて噂が囁かれていたが、それは真実だった様だ。
俺に害がないのならどうでも良かったが、彼女に目を付けられる原因となった写真部には今、怒りしか湧いてこない。
杉原衣は、常に背筋の伸びた佇まいをしており、笑顔にも品があり愛嬌がある。
そんな笑顔で「好き」と言われれば悪い気はしない。
けれど、俺には想っている女の子が居る。
「俺には好き子がいる、とても大事な女の子だ。だから、杉原さんの気持ちに応える事は絶対にないよ。杉原さんなら、俺よりも好条件の相手がすぐ見つかるさ」
「私は、藤堂君が良いんです。それから、藤堂君に想い人が居る事は存知てます、写真部から裏情報で教えて貰ってましたから」
「写真部、ある意味怖いな、あいつら何処で情報集めて来るんだよ」
まぁ、俺が結羽に振られた事実は、同じ中学の奴らなら知ってる奴が多いからな。
「藤堂君も片思いだと聞いてます。藤堂君がその子を口説き落とすのが先か、藤堂君が私に口説き落とされるのが先か、ゲームをしましょ、藤堂君」
「そんなゲームに付き合う義務は俺にはないよ」
「勝手に楽しむので、藤堂君は私に弄ばれてて下さいな」
「おい」
自由にも程があるだろ。俺の意見は無視かよ。
彼女は告げてきたゲームの勝敗が見えてるかの様な、不敵な笑みを浮かべている。
.
最初のコメントを投稿しよう!