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正反対な2人
「なぁ千彰 聞いてくれよ」
「ん?」
「俺数学100点だったから数学の学年1位確定」
「わざわざご報告ありがとうね。まぁおめでとう」
「どうせ国語の学年1位は千彰だろ?」
「多分ね。一応最高点だったし」
「なんでそんなに国語得意なんだよ」
「さぁ 自分でもよく分からん」
「えぇ…」
廊下を歩いていた神楽千彰を前方に見つけてテストの話をし始めたのは七瀬優有希だった。2人は話しながら同じ教室に入り、それぞれの席に戻っていく。
国語と読書が好きで他人から「真面目」だと言われがちな神楽は既に授業の準備を終えているが、数学と運動が好きで他人から「しっかりしろ」と言われがちな七瀬は時計を見て慌てて準備を始めた。好きな事も、性格も正反対な2人だ。
勿論、接点もなく、高校3年間同じクラスだと言うのに話し始めたのはつい最近の事だ。
1年生の頃の神楽は七瀬の事を「出来れば関わり合いたくないタイプの人」だと思っていた。七瀬の体格が他の男子と比べて良い事と、コミュニケーション能力が高いと言う事は、小柄で人と話すのが得意でない神楽にとって近付きたくない要素でしか無かった。だが、隣の席になってしまった事で「隣の席の人との話し合い」と言う避けたくても避けられないイベントが生まれてしまった。「腹を括るしかない」、そう思って話し合いを始めたが想像以上にさくさくと話は進んでいった。殆ど七瀬が話しているようにも見えるが、神楽の意見もしっかり聞いていた。話し合いを終えた神楽は「意外と苦手なタイプでは無いのかもしれない」と考えを改めていた。
接点らしい接点を持ったのは2年の頃からだった。希望制の課外活動への参加を2人とも希望していたのだ。3年生の先輩もいるとは言っても分かれて活動することの方が多く、必然的に神楽と七瀬が顔を合わせる機会も増えていた。最初こそは背が高く体格の良い七瀬に対して僅かな恐怖心があった神楽だったが、笑いのツボが浅く、しょっちゅう笑い転げている七瀬を見ているうちに恐怖心など微塵も無くなっていった。七瀬も真面目であるが故に冗談が通じなさそうだと思っていた神楽が意外とノリが良いと分かったからか話しかける事が多くなり、「千彰さん」と呼んでいたのがいつの間にか「千彰」と呼び捨てにする様になっていた。
そして3年生。神楽と七瀬は話している事が多くなった。大体話始めるのは七瀬で、1度話始めるとマシンガントークが止まらなくなっていたが、神楽はその勢いの隙を狙って相槌を打ったりツッコミを入れたりしていた。進路の事や課外活動の事といった事からその他の他愛もない話まで、様々な話をしているうちに2人はお互い気の置けない関係になっていた。
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