第14章 プロポーズ

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第14章 プロポーズ

季節は、夏から秋に移った。 その間も、二人の汚れなき情事の逢引きは続いた。 休日は東京に出てデートし、夜に抱いて抱かれた。 たまに、夜学の授業のない平日に会えば、そのままホテルで愛を貪り合った。 優男の虜 祐二は、心が清純で一途な女、亮子に惚れ続けている。 その女の裏に秘めた魔性の魅力が、さらに男心を虜にさせる。 抱くたびに女の魔性は磨かれ、その度に男は、女のさらなる魅力に引き込まれてゆく。 二人の恋愛は、一層激しく深まる。 男は、女を征服したつもりだったが、実は征服されたのは自分だったと思う。 女に懇願され、その約束でホスト稼業を辞め、今は学業と昼の仕事に専念している。 女に会える喜びに、毎日の生活に張りができた。 一方、女は女性特有の複雑な心理で、男との愛に生きていた。 一途な愛の力で、ホスト稼業を辞めさせ、自分以外の女と触れ合うことを極力避けさせた。 だから、好きな男を独占できたことに満足し、男に対する疑念と不安も消えたはずだった。 ただそれでも、残り火が体の奥底に秘め、そこから新たな恋の不安が襲ってきていた。 女心の変化か、進化なのか。 頭の中では、十分に男との恋愛を、生きる喜びとして受け止めている。 しかし、女の体は男から楔を打ち込まれる度に、その男から注がれる愛以上に、深く鋭利な愛に変貌してゆく。憎いほどに男を愛してしまっている。 身も心も、あの男なしには生きていけない、という怖さに震える。 そう、どこかでこの恋愛が風船のように、飛んで行ってしまうことへの不安が支配してくる。 そうなったら、生きていけそうもない。死ぬことよりもつらい。 秋も深まり、2階の窓から覗く庭の銀杏の葉も黄色く染まり、風の強い日には吹かれ散る。女は眺めていると切なくなり、胸が締め付けられてくる。 信じている一方で、あの優男から別れの言葉を言われたら、間違いなく生きていけないと思う。 もう気立ての良い、ただの一途な女ではなくなった。 体のすべてが、大人の女になりつつあった。 外見は顔と首が細くなり、臀部と太腿と足までが余分な肉がそり落とされてきた。 肩は撫で肩になり、ウェストは細く括れてきた。 広いハト胸は縮まったが、逆に隆起が高くなった。 豊麗な肉房に膨れ、弾力性に富んでたわわにしなっている。 体は、どこもかしこも過敏な性感帯になり、胎内も大人の成熟した桃源郷へと化してきた。 あの優男の虜に、なってしまった。もう男なしでは、完全に生きていけない。 あの男に捨てられたら、死ねるのであればよいがそれができないときには、身を破滅させて娼婦にでもなってしまうのではないか。 恐怖心に襲われる度に、そうならないためにも早く男と結婚をしたいと願った。 プロポーズ その年のクリスマス・イヴの日、二人は銀ブラと洒落込んだ。 銀座の街並みを腕組みしながら、成人のカップルのように歩いた。 日比谷では、映画を見た。 その数寄屋橋では立ち止まって、祐二が「君の名は」という恋愛小説の舞台であったことを説明する。 「僕たちがはぐれることがあったら、映画の春樹と真知子のように、ここで待つことにしよう」と、軽い気持ちで言う。 すると亮子は、「そんなこと言わないで、私たちはぐれることなんて、もう絶対ないわ・・・私が貴方を放すことないから・・・」と、強い口調で言った。 彼女の真顔に驚いた祐二は、 「ゴメン、縁起でもないことを言って、すまない」と、肩を落とす。 夕食は、有楽町の東京交通会館の「東京會舘スカイラウンジ店」を予約していた。祐二は、結婚を迫るつもりだった。 待ち合わせ時刻の前に、西銀座の宝飾店でプラチナの指輪を受け取っておいた。 水商売の経験のお陰で、女の指のサイズを見極めることができたので、既に二人のイニシャルを刻み発注していた。 高さ55メートルの回転レストランからは、夕闇の中にネオンの花が綺麗に咲く。 現在は超高層ビルが立ち並び、それほど目立たない展望レストランだが、当時はこのレストランからの眺望は、都心で有数のロマンチックな雰囲気を醸し出す名所だった。 この翌年の1968年(昭和43年)には、高層ビル建築の端緒となった147メートルの「霞が関ビル」も完成している。 二人はまだ19歳。それでもワインで乾杯してから食事に入る。 「今日の映画は面白かったね」 「見たかった映画だったので、よかったわ。いつも素敵なデートをお誘いいただき、ありがとうございます。貴方にお金ばかり使わせてゴメンナサイ。ここも高級レストランだから高いのでしょう・・・」 「そうね、確かに高いかも。だけど気にすることはないよ、僕は働いているのだから」 笑顔で明るく話す。 「感謝しています」と、女も笑顔をつくる。 そして料理が運ばれる前に、男は本題を切り出した。 「実は、今日は、報告することが二つあるの」 「ええっ、何かしら、怖そうだけど、聞かせて!」 「一つは、大学に進学することが決まった。先生の推薦で、白山にある大学の二部の社会学部に入学が内定した。後は、入学金と当初の授業料を期日までに払い込めば、確定する」 「そう、良かったわね、おめでとうございます。それで、お金は大丈夫なの?」 「大丈夫だよ、貯金があるから」 「来年からは二人とも大学生なのね、私の大学ともそう遠くはないわ・・・ご両親にご報告したら、喜んでもらえるのでは・・・」 「それは今すぐにはしない・・・親の悪口は言いたくはないけど、大学進学を報告したら、必ず金はどうしたのかと聞かれ、そんなに金を持っているのならと無心され、それが続く心配がある・・・君のやさしいアドバイスだけど、それだけは勘弁して・・・」 「分かったわ、理解する。それと、もう一つの報告って何かしら。早く聞かせて、ドキドキしているから」 「いいよ、でもその前に見せたいものがある」 と言って、ジャケットのポケットから指輪の入った小箱を取り出し、テーブルの上に静かに置いた。 「何かしら、これ指輪の箱じゃないの?・・・」 「はい、その通り。ご名答です」と言って、紺色の小箱を開けて、指輪を取り出した。 「薬指を出して」と言うと、すぐさま女の左手を引いて、白い指に指輪をゆっくりと嵌めた。 「素敵だわ、サイズもピッタリ。高そうだけど、クリスマスプレゼントなの?」 「そうだよ、クリスマスプレゼントでもある。君の返事次第では、婚約指輪にもなる」 「ええ、そうなの婚約指輪に・・・プロポーズね、早く言って。プロポーズの言葉を言って」と言って、甘えるように瞳を輝かせた。 じっと男の顔を見つめて、待っている。 男は深呼吸して呼吸を整えた。焦らしてもいた。 「何しての、早く聞かせて・・・」 「結婚して欲しい」 落ち着いた声で求婚した。 「私でいいのね、勿論、お受け致します。いつ結婚してくれるの?」 「すぐにと言いたいけど、二人とも、未成年の学生でもあるから・・・そうね、君が短大を卒業したら、再来年の春以降のいいタイミングを見て・・・とりあえずそのような感じかな。僕は、まだ勤労学生が続くけど、働いて給料も貰っているから、節約すれば生活はやっていけると思う」 「後は住まいね、文化住宅がいいわ。先ず公営の住宅を申し込みましょう。それまではアパート暮らしかしら、節約してお金を貯めるなら、私の実家に住みましょう。農家の広い家に今は3人暮らしだから、部屋は空いているの」 「ロマンチックなムードの中で、愛の告白をしたつもりだけど、けっこう現実的な結婚生活にまで話が弾んだね」と、笑った。 「そうなってしまったわ。私ね、待っていたの、結婚の言葉を・・・嬉しいわ、今夜プロポーズされて、安心したわ、本当に嬉しい」 「よかった僕もほっとした。君と結ばれるのが、僕の人生の中で最大のイベントだ。君なしの人生は考えられない」 「知っていると思うけど、私は両親が他界していないので、親代わりの姉夫婦に報告して了承してもらうわ。いいでしょう」 「勿論、そうすべきだよね」 「貴方は?」 「僕の親には事後報告にする」 「貴方がそれでよければ、いいけど・・・」 料理が運ばれてきたので、二人は一旦話を中断させた。 テーブルに料理が乗ると、まだ飲み残しているワイングラスを手にとった。 「もう一度乾杯しょう!」 「私もう飲めそうもないの、ゴメン」 「じゃ形だけでいいから、乾杯しよう」 「はい」 女も、ワイングラスを手に取った。 「それでは、二人の婚約に乾杯」と言って、杯をあげた。 男は安心したのか、空腹を思い出してすぐに料理を食べ始めた。 「実は・・・私も、プレゼントを用意しているのよ」と、女は言った。 クリスマスプレゼント用の包装紙に包まれた品を、バッグから取り出した。 「嬉しいな、何だろう?」と、言って食べる手を止めた。 「はい、どうぞ開けてみて」と手渡す。 すぐに、リボンを解いて開けてみると、小さな箱に収まったオーデコロンだった。 それもずっと愛用しているあの『恋の魔術師』だとすぐに分かった。 ためらった。 それに気が付いた女が、先に口を開いた。 「あなたが付けているオーデコロンよ。最近は私に遠慮して、抑え気味に付けているようね。最初は、ホストのためのオーデコロンと知って嫌だったけど」 「ゴメンね」 「謝ることはないわ、今はその匂いが好きよ、貴方の体の臭いと混ざり合った、この匂いが好きになったの。と言うより、この匂いでないと貴方ではないことが分かったのよ。私の一番好きな匂いよ・・・この匂いの貴方が、泣きたくなるほど好きなの、だから付けて頂戴。これまで使ってきたものは、もう残り少ないでしょう」 「よく、チエックしているね、ありがとう」 「聞いて、私の愛の告白も・・・」 少し泣き顔になっている。 「実は・・・女だけれど、今日は私から愛の告白をするつもりだったの、居ても立ってもいられないほど、貴方が好きでしょうがないの。だから、早く結婚の約束が欲しかった。このオーデコロンが私の愛の告白の印です。このコロンの匂いで女にされたのよ。だから、これからもこの匂いをつけて、私を抱いて愛し続けて下さい。貴方しか愛せない女になってしまったの・・・」 下を向いて、泣き出した。 すぐにハンカチを取り出して、両目に溢れる涙をそっと拭いてあげた。 「ありがとう、本当に僕は幸せだ。二人とも自分の方が、愛する力が強いと思っている・・・絶対に、どんなことがあっても君を放さない、信じてくれ」 こうして松岡祐二は、聖夜に最愛の小谷野亮子に求婚し、二人の結婚の意思を確認し合った。まだ親などの了承を得ていなかったが、本人同士の婚約は成立した。 二輪のお年玉 二人は晴々とした気持ちで、それぞれ1968年(昭和43年)の新年を迎えていた。 この年の我が国のGNPは米国に次いで世界第2位になり、まさに日本は高度成長期を迎えていた。 祐二は松が明ける1月8日に、小谷野家を訪問することになっていた。 会社は、松の内の7日まで休業であったが、一日休みをもらっている。 亮子が姉夫婦に祐二からの求婚を報告し、4人で結婚についての相談をすることになっていた。 姉夫婦は、まだ結婚について賛成も反対も言っていない。 松岡祐二からの正式の求婚の挨拶を、親代わりである姉夫婦が聴く、という初顔合わせの面談でもある。 亮子から言われて、祐二は床屋に行って急遽長い髪を切ってきた。 農家はまだまだ封建的で、自由恋愛には否定的だと彼女から聞かされていた。 さらに、身なりや家同士の関わり合いにも、こだわりが強いとも言われた。 一方、それでも彼は、自分の親には結婚話を一切していない。 家を出てからは、交流を避けてきた。 あの異常な性格の父親に相談すれば、すぐさま破局にされる可能性が高い。 従って、彼の気持ちはその点だけは居直るように、事後承諾だと覚悟を決め込んでいた。 管理人 中山のアパートの住人は、若い人たちばかりで、正月休みには皆実家へ帰郷していた。 大晦日の除夜の鐘が鳴り響く前から、法華経寺に初詣する人達が往来して、賑やかな声が部屋の中にまで響いてくる。 国電の下総中山駅から続くアパートの前の参道には露天商の店が並び、その露店は山門を越えて本堂に繋がる道端までもぎっしりと埋め尽くしている。 その大晦日の晩。 夕食を早めに済まして部屋に戻ると、唯一の暖房器具である小さな電気ストーブもつけずに、彼は4月から通う大学の「社会学」の教本を読み始めた。 読み始めてから、長い時間がすぎていた。 冷えてきたので、ふとんの中に入って再び読書に耽った。 正月明けの、小谷野家への訪問で緊張していた。 そのせいか、参道の提灯と露店の灯りが僅かにとどき、外からの喧噪とも重なって電気スタンドの灯りを消しても眠れそうもなかった。 とうとう明け方まで本を読み続け、厚い教本を読破してしまった。 それでも、元旦の朝にはうたた寝をしていたようだ。 「明けましておめでとうございます!」 管理人のおばさんの、いつもの甲高い声で目を覚ました。 勝手に障子を開けると、そのまま部屋に入り込んできた。 寝ぼけまなこで、「ああ、はい。おめでとうございます」 あいさつを、ふとんの中から交わした。 夏にゆかた姿で誘惑されてからは、腰を痛めたせいなのか、その後は体を求められることはなかった。 ただ土曜の半ドンや休日になると、お菓子や果物を差し入れてくれた。 その時には彼の部屋の中で、親子のように一緒に食べてはお喋りをして帰って行った。 「正月のおせち料理を作ったから、一緒に食べましょう。膳を運ぶのが大変だから、管理人室で食べましょうね」と言って、うつ伏せにしている彼の頭を撫で「髪を切ったのね。サッパリとして可愛い頭になったわね」と、言い残して部屋を出て行った。 管理人室にあるダイニングルームに、初めて足を踏み入れる。 テーブルの上には、おせち料理の重箱の蓋がすでに開けられていた。 雑煮が盛られているお椀からは、かすかに湯気が揺れている。 二人は、椅子に座って向き合った。 「ご飯もあるから、遠慮しないで食べて、いつも外食やパンばかり食べているのだから、たまには手作りの家庭料理を食べなさい」 「ありがとうございます、じゃ遠慮なくいただきます」 箸を持って、さっそく雑煮から手を付けた。 一口その汁を口に含むと、三つ葉のいい香りが鼻をつく。 おいしい。 級友の石田ゆり子が、作ってくれたトマトシチューも確かにおいしかった。 だがこの雑煮は、お袋の手作りの味がする。 味の深みとともに、調理する人の愛情を感じてしまう。 「おいしいです、久しぶりに家庭の味を思い出しました」 「そうかい、お母さんの料理を思い出したのかい?」 おいしい雑煮に感動して、ゴボウ巻などの素朴な野菜の煮つけのおせちも食べ始めた。 「小魚の甘露煮や牛肉のしぐれ煮も食べてよ、おばさんの得意料理なのよ・・・精力もつくからね」 「はい、いただきます」 あまりにもおいしくて、次から次へと手作りの料理にパクついた。 「実家には帰らないみたいね、みんな帰省しているに・・・」 「事情があって、帰れないのです・・・」 「そうかい、人にはいろいろな事情があるからね、寂しい気もするけどね」 と、言って熱い緑茶を入れてくれた。 「そうそう松岡君、オートバイで帰ってくるけど、あれは仕事用なのかい?」 「そうです、日中はオートバイで得意先や下請け工場を回っています。仕事で遅くなると、そのままオートバイで学校に行って、ここまで乗って帰ってくるのです。庭先に置いておくのはダメですか?」 「いいや、全然構わないさ、ここは広すぎるぐらいだから、問題はないのよ」 「すいません・・・」 「ところで、おばさんね、あんたにお年玉を用意しているのよ」 「ええっ、お年玉なんて貰えませんよ。おばさんは親でもないし、僕は今年20歳になる大人ですから」 「そうかもね、でもお金じゃないから、気乗りしなかったらいいのよ、特別にお金もかけていない物だから・・・」 「そうなのですか・・・」 「今、庭に置いてあるから、お茶を飲んだら見に行きましょう」 「ははいっ、分かりました」 食事が終わると二人で玄関から外に出て、管理人室の横にあたる通路に出た。 そこには、黒塗りのオートバイが置いてあった。 玄関を出入りする際に、左側を振り向けばそれが目に付くはずだが、いつも西側にある自分の部屋に真っすぐ目指すので気が付かなかった。 「すごい!これメグロのオートバイです」 と、驚きの声をあげて目を大きくして眺めた。 ハンドルを握り、ガソリンタンクを撫で、エンジンなどの部位を舐めるように見入ってしまった。 「これね、知り合いから貰ったものなのだけれど、乗れるように修理したから、大丈夫よ、よかったらあげるから、乗っておくれ。オートバイ好きなのだよね」 「本当にいいのですか、今このオートバイは高い値段で取引されているのです。そもそも、もう市販されていない『SS3の200CC』、ビンテージ物のオートバイです!」 「そうなのかい、まだ知り合いの名義だけど、すぐに名義替えできるから、オートバイ屋でチュウ・・・何とかして貰ったから、新品と同じ性能だと言っていたよ」 「チュインナップですね。オーバーフォールして、劣化部分を元の性能に復元することです。お金が相当かかったはずです」 「たいしたことないよ、知り合いだからただ同然さ。遠慮しないで使って頂戴、おばさんの感謝の気持ち」 (えっ感謝?感謝されるとしたら、夏にセックスしたこと・・・) 「本当にいいのですか、僕うれしいな。感謝です・・・」 本当にうれしかった。 若い男はオートバイに憧れる。 車よりも手に届く存在だったが、貧しかった彼にはとっては簡単には買えない。 この型のメグロのバイクは10年前から生産されていたが、メーカーの目黒製作所が昭和39年に破たんしたため、この人気のシリーズは販売されていなかった。 マニアの間では、幻のオートバイとして人気があった。 管理人室に戻って、オートバイの鍵を受け取った。 「ありがとうございます。ビックリしました」 さらに、喜びを隠しきれずに、 「盆と正月がいっぺんに来たような感じです。おばさんのお年玉はすごくうれしいです」 「よかった、そんなに喜んでもらえるなんて、可愛い子供のためだもの・・・おばさんも嬉しいよ。よかった、よかった」と、相好を崩した。 椅子に座ると、すぐにお茶を湯呑に注ぎ足してくれた。 姫始め すると、熱い眼差しを向けながら「お茶飲んで一服したら・・・事始めでもしょうかね」 「ええっ、事始めですか??」 「女にそこまで言わせるのかい・・・恥ずかしいねえ、姫始めだよ」 (やはり、そうなのか・・・でも断れそうもない。メグロのオートバイは乗ってみたいし、欲しい高価な逸品だ。亮子ごめん許してくれ) ダイニングルームの隣の部屋に、連れて行かれた。 広い和室だった。 そこには、すでにふとんが敷かれていた。 夏江は、小太りの体に着物を着た上に割烹着を羽織っているので、よけいに体形がでっぷっりとして見える。 その割烹着がさらりと体から外れた。 「おばさん、着物は脱がないでいいよ!」 「何言っているの、脱がなければ始まらないだろ」 「僕が脱がしてあげる」 「うんまあ・・・そうかい、やさしいね」 立ったまま抱き寄せて、口付けをする。 舌を大きく入れて、強引に女の舌に巻き付けた。 呼吸をする暇も与えず、その舌を吸い続けた。 女が苦しくて顔を揺する。 きつく抱きしめたまま口を放すと、女はハァハァと荒く呼吸をする。 休まずに、首筋と耳に熱い息を注ぎながら愛撫を続ける。 「ううっん、まあ激しいこと・・・」 「おばさん可愛いよ」と、耳元に囁いた。 「うまいこと言うね、本当に孝行息子だね、おばさんも大好きだ!」 と、叫んで両手を男の首に廻す。 男の手は、着物の上から女の背中と腰を強めに撫でまわす。 着物の襟もとを、後ろにそらして胸元を広げた。 「ああっ、気持ちいい・・・」と、声を漏らした。 腰に手を回して帯を少し緩めた。 これで上半身全体の着物が緩まった。 胸元から手を入れて、肩から着物を脱がし外す。 同じように、手を替えてもう片方の肩からも着物を外した。 上半身が裸になった。 しばらく、顎、耳、首と胸に愛撫を続けた。 刺激が強いのか、顔をのけ反って「効くぅ、すごくいいわ」と声をあげる。 直後には「ダメ、立っていられない」とうめき声をあげる。 その声を聴いて、両胸を噛むと女の体がガクガクと震えた。 すぐに、ふとんの上に押し倒した。 再び帯を緩めるが、完全には解いてはいない。 裾を捲り上げて、下半身を曝け出した。 女の体にのしかかった。 顔を両手で挟むと熱いキスをする。 女の両腕が男の首に廻された。 「おばさん、名前はなんと言うの?」 口を放して突然尋ねた。 「そうだね、おばさんばっかりじゃ、色気ないね。年がいっても女だからね・・・夏江だよ」 「夏江さんか・・・忘れられない名前になる」 「嬉しいこと言ってくれるね」 「名字は何と言うの、表札には『田中』と書いてあるけど、田中夏江さん?」 「違うよ、あれはここの所有者の名字よ・・・私は単なる管理人だから・・・小谷野と言うのよ、小谷野夏江よ」 (ええっ小谷野、まさか亮子の姉では・・・違う長姉は35歳ぐらいだから・・・ただ、いずれにしても、小谷野はこの地元の農家に多い名字だから、小谷野一族に連なる姻戚関係の可能性が高い・・・これはまずいな、まいった。今更後戻りはできないし、否こうなったら、夏江さんが邪(よこしま)な考えを持たないように、秘密保持のために憎まれないよう接しなければならない・・・) こうして祐二は、再び管理人のおばさんと肉体関係を結んでしまった。 正月明けには、亮子の小谷野家を訪問して、結婚を正式に申し込むこととなっているのに。
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