♯10 Reyと私

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 私はピンとくる。 (あの時の人だ!)  町瀬くんの隣にいた少し怖そうな男の人。  年が離れている印象を抱いていたので、私たちと変わらない制服姿に、新鮮さを覚える。  水樹くんがタメ口で話しかけていたところからして、もしかしたら同い年かもしれない。  その人から少し離れた場所では、1人の男子が壁に背を向けながら丸椅子に座っていた。  白い制服に身を包み、細身。 「桜井、よっ」片手を挙げてくる。 「町瀬くん――」  この部屋には町瀬くん、水樹くん、金髪の男の人の全部で3人の男子が集まっていた。 「おい、(しゅん)。今日は練習するつもりじゃないから、なんも持ってきてねーぞ」  水樹くんが金髪の男の人に向かってそう言った。『俊』という名前らしい。 (練習……?) 「ああ、いいよ。今日の主役がちゃんと来てくれただけで十分だ」  俊さんが私の方を見てニヤッと笑う。 (しゅ、主役!?) 「わざわざごめんな、こんな離れたとこまで。来るのちょっと負担だったんじゃね?」 「い、いえ! 電車で1本だし、水樹くんが切符を出してくれたので大丈夫です!」 「へえ、そうなの?」俊さんが水樹くんの方に目をやる。  水樹くんは軽くウィンクをした。  俊さんが肩掛けストラップを外し、手に持っていた楽器をアンプに繋いだまま近くのギタースタンドに立て掛けた。  スラックスのポケットの中からスマホを取り出す。  それを少し操作し、何か言い始めた。 「えーと。『聞いていて楽しくなる曲です!』『個人的に前のより好きかも』『リピートしたくなる』『嫌な事があって落ち込んだ時に聞いたら元気が出ました!』『普通に良曲』『もっと再生数上がれ』」  その文章や文句の1つ1つに私は心当たりがあった。  繰り返し何度も再生したが瞼の裏にパッと浮かぶ。 「夜に明けるのコメント……?」  思わずそう呟いたところ、俊さんがパチンと指を鳴らす。 「ご名答!」  俊さんは上機嫌に言った。 「『茨の道とマリオネット』の時よりもウケがいいんだよな」  茨の道とマリオネットはReyのオリジナル曲の第一作目。  俊さんはどういう訳か、それと夜が明けるを比較するような事を言っていた。  その後、私の目をじっと見つめてくる。  切れ長の目の奥には熱が宿っていた。 「なぁ、澪ちゃん」 「は、はい」  何を言われるのかと身構えた。
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