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私はピンとくる。
(あの時の人だ!)
町瀬くんの隣にいた少し怖そうな男の人。
年が離れている印象を抱いていたので、私たちと変わらない制服姿に、新鮮さを覚える。
水樹くんがタメ口で話しかけていたところからして、もしかしたら同い年かもしれない。
その人から少し離れた場所では、1人の男子が壁に背を向けながら丸椅子に座っていた。
白い制服に身を包み、細身。
「桜井、よっ」片手を挙げてくる。
「町瀬くん――」
この部屋には町瀬くん、水樹くん、金髪の男の人の全部で3人の男子が集まっていた。
「おい、俊。今日は練習するつもりじゃないから、なんも持ってきてねーぞ」
水樹くんが金髪の男の人に向かってそう言った。『俊』という名前らしい。
(練習……?)
「ああ、いいよ。今日の主役がちゃんと来てくれただけで十分だ」
俊さんが私の方を見てニヤッと笑う。
(しゅ、主役!?)
「わざわざごめんな、こんな離れたとこまで。来るのちょっと負担だったんじゃね?」
「い、いえ! 電車で1本だし、水樹くんが切符を出してくれたので大丈夫です!」
「へえ、そうなの?」俊さんが水樹くんの方に目をやる。
水樹くんは軽くウィンクをした。
俊さんが肩掛けストラップを外し、手に持っていた楽器をアンプに繋いだまま近くのギタースタンドに立て掛けた。
スラックスのポケットの中からスマホを取り出す。
それを少し操作し、何か言い始めた。
「えーと。『聞いていて楽しくなる曲です!』『個人的に前のより好きかも』『リピートしたくなる』『嫌な事があって落ち込んだ時に聞いたら元気が出ました!』『普通に良曲』『もっと再生数上がれ』」
その文章や文句の1つ1つに私は心当たりがあった。
繰り返し何度も再生したあの動画のコメント欄が瞼の裏にパッと浮かぶ。
「夜に明けるのコメント……?」
思わずそう呟いたところ、俊さんがパチンと指を鳴らす。
「ご名答!」
俊さんは上機嫌に言った。
「『茨の道とマリオネット』の時よりもウケがいいんだよな」
茨の道とマリオネットはReyのオリジナル曲の第一作目。
俊さんはどういう訳か、それと夜が明けるを比較するような事を言っていた。
その後、私の目をじっと見つめてくる。
切れ長の目の奥には熱が宿っていた。
「なぁ、澪ちゃん」
「は、はい」
何を言われるのかと身構えた。
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