♯10 Reyと私

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「いや?」  彼はあっさり否定した。 「そうなの? いつも金倉さんと親しそうだから、もしかしたら……って思って」 「はは、金倉はただの仲の良い友達の一人だよ。そんな特別な関係じゃない」  水樹くんが足を軽く組んだリラックスした姿勢でそう言う。  返事を聞きつつ、長い足だな、と密かに心の中で思った。  男子と女子の体格差があるとはいえ、隣に座る私が子供に見えてしまうほど、スラッと遠くまで伸びる足をしていた。 「それにしても、意外とよく見てるじゃん?」水樹くんがニヤッと笑う。  私は急速に顔が熱くなっていくのを感じた。  これではまるで、事あるごとに水樹くんの様子をチェックしている、と言っているようなもの。  私は慌てて両手をパタパタと振る 「ち、違う! 水樹くんは目立つから自然と目に入るだけで! 別に興味があって見てるとかじゃないから!」  すると、水樹くんが唇に人差し指を当てて『シー』のジェスチャーをしてきた。  いきなり騒いだせいで乗客の視線が私に集まっている。  余計に恥ずかしくなった私は、シートの上で小さくなった。 section15    博多駅に着いた私たちは、西出口を抜けて、しばらく北西へ歩く。  河口から登ってくる冷たい潮風が体を吹き付け始める頃、メメントーホルが前方に現れた。  水樹くんがスッと私の前に出て、勝手を知ったように館内を歩いていく。  そして『第一音楽練習室』と書かれた部屋へ近づいていった。 ――ズンズン。  中からは何かの楽器の低くて重たい音が響いている。  私の知らない世界が広がっているみたいで、心臓が早鐘(はやがね)を打ち始めた。  その部屋のドアを水樹くんが数回ノックする。  しかし楽器の音色にノック音が掻き消されてしまう。 「聞こえてねーな」  そう言ってドアを勢いよく開けた。  少し遅れて楽器の音が()んだ。 「うっす」静けさの中、水樹くんが砕けた挨拶をしながら室内に入っていく。 「おお、怜央」 「よう」  そう挨拶を返す2人の男子の声が、少し遠い場所から聞こえた。  広い部屋だということが分かる。 「同じ学校だから、ついでに連れてきたぜ」  水樹くんが部屋の奥に向かってそう言い、それから私に手招きをした。  私は恐る恐る中に足を踏み入れる。  20畳ほどの縦に長いフローリングの部屋。  一番奥にドラムセット、キーボード、マイク、アンプなど様々な楽器や音響機器が置かれていた。  そしてドラムの前で、髪を金色に染めた制服姿の男子がギターかベースのような楽器を手に持ちながら立っていた。  暑いのかブレザーを脱ぎ、上は白いワイシャツだけ。  それを更に腕まくりし、そこから覗く右腕の一部に、何か黒い模様のようなものを読み取れた。
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