♯10 Reyと私

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「うちで作曲やってみないか?」  思いがけない言葉に私はキョトンとする。 「……さっきょく?」 「そう。曲を作って欲しい」 「えっと、『うち』っていうのは?」 「Reyのこと」 「Rey……?」 「これ、実は俺が作ったバンドなんだ」  俊さんがそう言いながら、iTubeのReyのチャンネルページを私に見せてきた。 「へっ!?」 「それでアイツらはそのメンバー」親指の先で水樹くんと町瀬くんを指さす。  にわかには信じがたかった。  ずっとReyの事を日本のどこかで活動するソロシンガーだと思っていた。  それがその正体はバンドで、しかも町瀬くんや水樹くんがメンバーに名を(つら)ねているという。  私のすぐ身近にReyは居た――。 「ちなみにボーカルは俺」町瀬くんが横から言う。 「えっ、本当に!? じゃあ、あの歌は町瀬くんが……?」 「ああ。カバーもオリジナル曲も全部俺が担当してる」 「うそ……でも町瀬くんからあの歌声は想像がつかないというか」 「知ってるか? コイツ、歌い始めると別人なんだぜ?」俊さんが鋭い笑みを浮かべる。  その時、水樹くんが私に椅子を持ってきてくれた。 「とりあえず座って落ち着きなよ」  促されるままに私は腰を落とし、その隣に水樹くんも着席した。  俊さんが話し始める。 「バンドを設立しようと思ったのは去年の秋のこと。そこからドラム、ボーカル、ギター、ヴァイオリン……いろいろ集めてきた。でもまだ足りないポジションがある」 「それが作曲……?」 「そう」 「でも、普通、作曲ってメンバーの誰かが掛け持ちしてやるんじゃ――」  バンド事情にはあまり詳しくはないけれど、作曲はメンバーの誰か、特にボーカルが兼任しているイメージがある。 「それでも活動は成り立つが……。俺は妥協したくなくてね。メロディーラインは言わば歌の大黒柱だ。そんな大切な物を適当にメンバーで手分けして作る訳にはいかない」  驚きの連続だったが、どうにか俊さんの話を飲み込む。 「どうしてそれを私なんかに……」 「うちのボーカルが惚れたからな」 「え?」 「澪ちゃんの奏でる音色に。そうだろ? 奏多」  すると町瀬くんが頭を掻いた。 「桜井の作った曲に俺は衝撃を受けたんだ。いつまでも耳に残る、聴いていて心地のいい曲ばかりだった。こんな所で眠らせておくには勿体ないぐらいの才能が桜井にはあるんだよ!」 「それで奏多が『めっちゃいい曲作る子がいる』って澪ちゃんの事を俺に激推ししてきてな。そこまで言うなら、って、試しに澪ちゃんのメロディを元に一曲仕上げてみたんだ」
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