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その何もかも見透かしたような声は突然、俺の耳に飛び込んできたのである。
完全に気を抜いていた俺は慌てて背もたれから飛び起きてしまう。
そして声の聞こえたベランダの方へと視線を向けると──
「寿、杏っ?! …お前なに人の部屋に勝手に入ってきてるんだよ、早く出てけよっ」
見るとそこにはこちらを向きながら黒い羽を高々と広げ、ベランダの欄干に座る黒烏族長・寿杏が笑みを静かに浮かべこちらを見つめていた。
ここは高層マンションの高層階に位置する部屋──普通の人間ならばまず外から来れるはずがない。
しかし寿杏は烏一族、普段は見えないよう隠しているが大きな羽で空を飛ぶことができる。
だからこんな高い所でも外から来ることができるのだ。
「……そうか、健次郎くんは他に想い人がいたのだね。──だが、その相手と結ばれることは許されない、だから綿世十和と結婚しせめて想い人の生を生き長らえようとしたのだねっ。
素晴らしいっ、それこそ犠牲の愛っていうやつだね」
そしてもう一つ──黒烏族にはある特徴がある。
それは相手の心を読み取ることに長けているということ。
「お前に関係ないだろっ、どさくさにまぎれて人の気持ち読み取るなよっ」
「そんなの仕方ないでしょ、相手が警戒でもしない限り勝手に心奥底の考えが流れてきてしまうのだから──まぁ、そのおかげで清司郎と十和さんの結婚のからくりを知ることができましたけどね」
欄干から降りた寿杏は得意げな表情を浮かべ部屋の中へと入ろうとしてくる。
そしてさっきまで兄貴達が座っていた向かいのソファーへと静かに腰をおろした。
「……からくり、って何だよ?」
「──さっきね、十和さんを口説こうと少し近づいてみたんだけど彼女、意外と心が固くてね。今の所まだ僕になびく様子もなかったんだよね……けど、思わず心の奥底を覗けちゃったんだよ。
……なんと清司郎達のこの結婚、どうやら偽装の結婚らしいよ健次郎くん」
(……は? 偽装……?)
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