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プロローグ〜実らない恋〜
「この先のことは焦らなくていい。まだまだ時間はいっぱいあるんだ──ゆっくり悩め、若人よっ」
空はこんなにも清々しいほどの青空が広がっているというのに、私の心はそれとは真逆にどす黒い闇が広がっている。
大きな怪我で長年続けてきた柔道の道を絶たれた私は、自分の未来に絶望感を抱いていた。
予定では大学まで柔道を続けるつもりでいたのにそれが出来なくなった今、私は一体どこへ進めばよいのだろう……気持ちばかりが焦る日々。
──そんな十七歳の夏
ボランティア指導員として二年前から私の通う柔道場へ教えに来ていた雪平さんは、その言葉と共に大きくてゴツゴツした、それでいてとても温もりのある優しい手で私の頭を撫でてくれた。
「若人って…雪平さんだってまだまだ二十五の若人じゃない」
(そう…雪平さんはいつだって私を、子供扱いす、するんだか、ら……)
「……うぅ、ヒッ…ヒック─ゆ、雪平さッ、ん」
子供扱いはするなと思うくせに雪平さんの言葉を前にすると、私は毎回小さな子供のように泣きじゃくってしまう。
抑えきれなくなった感情が一気に溢れ出てきて自然と涙が流れてくるのだ。
そして雪平さんに相談した後、毎回残るのは恥ずかしさと気まずさ、それに……胸高鳴るドキドキ感。
雪平さんの優しい笑顔にいつの間にか私の顔は赤く染まっていく。
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