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コンビニに行ったのも、近くでヒーローと悪役が戦う場面に出会したのも、偶然だった。
学校で財布を持っているとたかられるから、いつも買い物は家に帰ってから。面倒だけど、自分の身を守る大事な処世術だった。
帰宅した後、ふとアイスを食べたくなって、キリヤはコンビニに行く事にした。
出掛ける準備をしていると、テレビのニュース音声が耳に入ってくる。
新しいヒーローが選出された、というものだ。
キリヤの住む世界は、一般的な普通の現代社会っぽい。が、日曜日に放送されていそうな特撮的一面が存在していた。
突然、この世界に魔王が爆誕したのだ。
人間達による環境破壊で住む場所を失いつつある、か弱い生物達の怨念から生まれた集合体。そう推測されている魔王は、考えに賛同する人間に生物達の力を授け、世界征服を企んでいた。
しかし、世間一般的な人間達と同じで、自分には無関係な話だと、キリヤはずっと思っていた。
関わる事はあっても、悪役に襲われてヒーローに助けてもらう側の人間になるだけ。
私生活で弱者とされている自分には、それがお似合いだとさえ感じていた。
そんな状況にいつかはなるかもしれないと予想していたが、思っていた事とは違った。
黒い仮面を着けた黒装束の悪役が、ボロボロな姿で膝を付いていて、明らかに劣勢。
彼の前に立つヒーローは顔を隠さず、堂々と悪役の前に立っていた。
証である白のジャケットを纏い、真っ赤な夕陽に照らされている凛々しいヒーロー。
普通なら彼を応援して、憧れの眼差しを送る立場にキリヤもなる筈だったが。
「は……?」
そのヒーローは、キリヤの心に絶望と憎しみを植え付けた。
信じたくはない光景に歯を食い縛っていたら、ヒーローが悪役に剣を振り下ろした。
その瞬間、キリヤは咄嗟に前に出た。
空を斬った刃はキリヤの額スレスレでピタリと止まる。
民間人が間に入ってきた事に、両者は困惑していた。
ヒーローの方は驚きを隠せない様子で、真っ直ぐキリヤを見ていた。手も酷く震えている。
危うく関係のない人間を斬ってしまいそうだったから、ではない。
自分を見るキリヤの目があまりにも冷たく、憎悪に満ちていたからだろう。
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