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「強いんですね、伊鶴さんは」
「強いんじゃねーよ、強く生きる必要があったから身体が適応しただけだ」
伊鶴の中に、少年時代の記憶がふと甦る。
学校に通っていた時に、クラスメートから非能力者であることを散々馬鹿にされた。不幸にも、彼の周りには能力者が多く集まっていたため事あるごとに弄られ続けた。
そのことを、伊鶴の両親も知っていた。
非能力者同士の結婚、産まれる子供がPSIを持たないのは始めから分かっていたことだった。…それ故に、いじめられる息子に対し、両親は毎日のように侘び続け…
悪気が無いことは分かっていた。
むしろ愛されていた方だ。
だけど、謝られるたびに、その謝罪の言葉は伊鶴の中ではこのようにも受け取れる。
「産んでしまってごめんなさい」と。
その事が、いじめられること以上に辛かったのだ。
とにかく周りを見返してやりたかった。
非能力者でも出来る事があるのだと。
そのために、文武両道目指し猛特訓した。16で一ノ瀬屋敷に使用人として雇われ、基礎的な常識を叩き込まれ、20で産業に携わる部門を任され新アルカの経済発展に大きく貢献した。
元々コミュニケーションには自信があったため、取引が得意だったのだ。…その得意分野で多数の女性を手玉に取り、とっかえひっかえ遊び呆けた時期もあり、周囲から黒歴史扱いされているという話は、後ほど語られるため今は割愛するが。
「とにかく!お前のそのマイナス思考の塊は、俺が何とかして取っ払ってやるから、顔を上げろ!外に出るぞ!」
「え、今から…?」
「ったりめーだ!こんなに良い天気なんだ、出ないと勿体ない!…まぁ曇ってるんだけどな、」
伊鶴のペースに完全に嵌り込み、戸惑う澪。しかし、悪い気分はしなかった。兄以外に、これ程までに自分を気にかけてくれる人物がいる、その事が彼にとって大きな希望となりつつあったのだから。
『お前にしか頼めない』
(確かにな、能力者ではあるけど弱くて困る、なんて悩みがあったとしても、立場上気安く相談できる相手は中々いないだろうな…この世界では特に)
何となく、陣が自分を指名した理由が分かった気がした。
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