私を消した理由

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私を消した理由

「さよなら」と、告げられた。  イトのスマートフォンにはそのひとことが残っていた。  目覚めた直後の日課になっているLINEのメッセージチェック。そこで彼はその文言を発見していた。 「やっぱりな……」  眠るまえにシキにメッセージを送った時点で、なんとなく予想はついていた。そのときに送ったものは決して特別な連絡なんかじゃない。これも毎日の単純な日課だった。  イトはまばたきも忘れ、スマートフォンのディスプレイに浮かぶ四文字を眺めていた。  昨日、詳細がわかるよう彼女に長文を送ったにもかかわらず、夜中に目が覚めるとそれに対する返答はたったひとこと。「さよなら」だけだった。  なかば反射でメッセージを送った。既読はつかない。予備知識として持っていた、スタンプのプレゼントも試みた。ポップアップには「シキさんはこのスタンプをすでに持っています」という文字が無慈悲にならんでいる。  もう想いは届かないんだ。昨日まで届いていた言葉さえも届かない。そう思うと、胸が痛んだ。 「今までたくさん迷惑かけたもんな……」  自分が悪い。あの日、あのとき、もう少し理性を働かせていれば……なんてことをイトは思った。あの瞬間、泣いていた彼女のそばにいて、もしもこの手で抱きしめてあげられていたら……などと不可能なことにさえ後悔の念が湧いた。 「全部、おれが悪い」  彼が結論づけた感情は、まぎれもない事実だった。幼いころからずっと一緒にいて、イトはずっとシキのことを守ってきた。シキが同級生にいじめられれば、彼はすぐさまいじめっ子ととっくみあいの喧嘩をした。しかし、その結果、怒られるのはいつもいじめられているシキだった。  理不尽だと思った。たしかに自分は、いじめっ子をこてんぱんにしたけれど、それはあいつらがシキをいじめていたからだろう? こんな不公平な話はないと思った。  大人になってからも、イトはいつもシキに寄り添ってきた。シキに初めての恋人ができ、その恋人の浮気が発覚したときにも、泣いているだけのシキに代わって詰め寄ったのはイトだった。まあ、あのときは、たしかにちょっとやりすぎちゃったけど。
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