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今日最後の講義が終わって先生が壇上で片付けを始めると、教室の中の空気が一気に緩んだ。金曜だったからなおさら。
大学に入学して半年、もうすっかり環境にも慣れた。
ざわめきの中、私もバッグにテキストやノートを片付けていた……隣の彼に意識を向けながら。
彼……岡野誠もリュックにペンケースを仕舞うと、大きく背伸びをした。
私はちらりと岡野くんを見て、
「やっと休みだね。あー、週末はのんびりするかなぁ――岡野くんは?」
『週末、ヒマしてるよ!』のアピールを精一杯交えて声を掛ける。
岡野くんはふにゃりと音がしそうな笑顔を私に見せ、
「俺はいつも通りバイト三昧! 週末は稼ぎ時だからね」
だよね、わかってたけど。
私はちょっとのがっかりを小さいため息に変え、笑い返した。
最初は、そのふわふわの綿菓子みたいな笑顔にときめいた。優しいのは笑顔だけじゃなくて、声も、態度も、全部なのを知って、はっきりと恋に落ちたのを自覚した。
こんな男の子、今まで私の周りにはいなかったから。
そして今、岡野くんは……私の運命の人なんだって思っている。
同じ学部、同じ学科。
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