54話 金の瞳を誘う。

1/1
30人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ

54話 金の瞳を誘う。

「――御冗談を。けれど、きっとそう言ってしまうようなお辛いことがあったのでしょう。私で良ければお話をお聞かせ願えませんか? 貴方の――」  ロジェはそこで言葉を切り、ティアの金色の瞳を覗き込むように見つめた。 「ティア様の憂いを少しでも晴らせたら、と」  ティアはその言葉に満足そうにアイスブルーの瞳を見つめる。つい今しがた初めてロジェを見た時から、随分良い男だと思っていたのだ。邪魔になりそうな妹もいない今、これは良いタイミングだと。     ティアは自他ともに認める美貌を持っている。自分に自信があるのだ。これまで自分の誘いを断った男など一人もいない。  このフェデーレの男も例に漏れず、私の美しさには叶わないのだ。 「――いいわ。行きましょうか」  ロジェは嬉しそうにほほ笑むと、ティアをエスコートするようにその手を取る。  けれどそれは、ティアに取り入るためのロジェの演技であった。  ロジェは王都から出発する前に、事前にいくつかの情報を集めていた。その中にティアに関する情報があったのだ。  詳しいことは分からなかったが、ロジェは不思議に思った。何故、姉のティアが星詠みではなく、弟のイディアが星詠みなのか。  力の差、適正、本人の意志。様々な要因があるのかも知れないが、もしかしたら、この姉は弟である星詠みを暗殺する理由があるのではないか、と。  フェーンに来てどうやって接触しようかと考えていたところだったので、正に渡りに船だった。  けれどこれに慌てたのはアリオスだ。 「えっ!? ティア殿っ! ロジェ様をどこに連れて行かれるのですっ!? この後豪勢な食事を用意しているのですがっ!?」 「貴方が食べたら? そのお腹なら、一人でもいけるでしょう?」  ティアはうっとおしそうにアリオスに返す。アリオスは負けじとティアの前に躍り出た。 「お待ち下さいっ! リリー様だけでなくロジェ様まで連れて行かれたら、私はどうしたらいいのですかっ!」  そこまでフェデーレに恩を売りたいか、とロジェは辟易する。けれどアリオスのことも無碍にはできない。容疑者候補の一人なのだから、手近に置いておきたいところだ。  ロジェはそうだ、とにこやかにアリオスに提案した。 「私の部下達三人は残りますから、彼らをもてなして下さい。私からのお願いです」  イクス達護衛三人はこの領主館に残し、アリオスの周辺を探らせるつもりだ。ロジェは自分の身は自分で守れるし、それで良いだろうと考える。  するとロジェのお願いが身に沁みたのか、アリオスは全力でロジェに答えた。 「お任せをっ!!! お前達、早く夕食の準備をっ! 御三方をお呼びしてっ!」  ばたばたと騒がしく動き出す侍女やアリオス。  ロジェはイクス達に頼んだぞ、と届かない念を飛ばしながら、ティアと連れ立って領主館を後にした。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!