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カチャッ… 玄関のドアを開け、明りをつけた。この時間帯なら楓は居ない。 たった2日家を空けただけだというのに、懐かしく感じてしまうのは何故だろう。 リビングにも明りをつける。 この部屋を見渡すと、いつものように綺麗に片付けられていた。 この部屋は苦い思い出も、嬉しい思い出もある。 一緒に暮らすようになって、いつだって、そのテーブルで2人向かい合って食事をした。 それが、1人で座り食事をする事が多くなった。 そのソファは、一緒に暮らすようになって、2人で良く隣合って座り、テレビを観たり、映画を観たり、楓が寝て、僕が膝枕をしたりした。 それが、1人で座り、1人でうたた寝をしたり、そのソファで虚しく1人で楓を待つ事が多くなった。 そして今、僕は1人で感傷に浸っている。 着替えを取りに寝室に向かうが、 寝室に入るのを躊躇してしまう。 だって、そこで楓は――――… ズキンッと胸が痛む。 男を抱いてる楓を思い出したから。 まただ。 またフツフツと怒りだとか、悲しみだとかの思いが湧き上がる。 怒るという事は、悲しむという事は、無関心になれていないという事。 この気持ちがあるうちは、吹っ切れていないのだろう―――…。 でも、今は楓ともう1度、恋愛したいとは思わない。ましてや、楓と寝たいとも思わない。 心を落ち着かせる為に深呼吸をする。   意を決して寝室のドアを開けた。 ベッドは綺麗に整えられていた事にホッとした。 乱れたままだなんて生々し過ぎるから。 それでも早くこの部屋から出たくて、素早く着替えをスーツケースに入れて部屋を出る。 次にこの部屋に来る時は、僕が本当に出て行く時だ。 その時には、握りしめたこの鍵はポストに入れて置く。 思い出とともに――――…
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