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Episode00-01 始まりと終わりの
…――うん。そうだね。魔王。これは全てが終わったあとの人間界での出来事。
もうアレから、どれだけの時間が流れたんだろう。魔界で魔王と出会い、夢物語とも思える魔界を旅した楽しい日々から。もはや忘却の彼方とも言えるほどに時が経った。それだけは分かる。ふふふ。自分の心は強いって思ってたけど……。
意外とセンチメンタルなのかもね。あたしは。
「詰みな罪ね。なんてね。ふふふ」
パチン。両頬を思いっきり叩く。
ここはテラス。暖かな陽光が少女を照らし出す。近くではツグミが笑って歌う。
少女はグレーとも薄い緑色とも表現出来る艶やかな髪色をした長い髪を、かき上げる。毛先は自由を得たとばかりに歓喜に打ち震えて好き勝手な方向へと、その足を向けてから踊り狂う。その軽快なステップは、まるでダンスホールの小悪魔。
悲しくなったら思い出せ。忘れるな。俺達を。
いや、グリコ、お前が俺達を忘れられるわけなどあるか。ククク。そうだろう?
ふふふ。
まぁね。
メルちゃん、魔王、ジュン、君たち、三人の事は絶対に忘れられないわ。ねぇ?
忘れようとしても忘れさせてくれないような強烈な個性を持った三人だったから。もちろん魔界などという常識では測れない世界も蠱惑的で恐いほどの魅力をもった世界だったから。ものすごく貴重で興味深い生を体験させてもらったわ。
それに。
魔王、あなたのギャグはね……。
気絶するほどに寒すぎて、一度、聞いたら二度と忘れられないわ。
ただ、恐いの。恐いだけなのよ。
それが思い出に過ぎないんだと考えちゃうと。
忘れられないからこそ、それは思い出なんだって思い知らされて、もう二度と、あそこには戻れないんだって痛感するから。もちろん、もう二度と戻っちゃダメなんだけど、それでも、また君たちに会いたいって思っちゃうのは本当なのよ。
素直で、真っ正直な気持ちなの。
だから。
クソう。
あぁ。私って本気で弱い。もうダメだ。ダメ。
パチン。
また両頬を両手のひらで思いっきり叩く少女。
彼女の視界が、涙で、にじんで歪む。泣き笑いだ。悪い意味での。
ケケケと鳴いたツグミがテラスの屋根へと止まる。大丈夫だよ。大丈夫だよと。
ぼたり。
彼女の両頬に伝った雫が、あごにたまり、そのあと静かに落ちる。
まぶしいほどに射し込む温かい日差しが彼女を優しく包む。空からの恵みも、また慈しむ。彼女を。仮に、少女の言う三人が、ここに居たならば、やはり、ツグミや陽光のようにいたわるのであろう。それぞれが、それぞれなりの優しさで。
グリコ。
だから。
泣くな。
そんな時こそ俺のホットなギャグを思い出せ。
ホッと一息。ポットに入れたホットをポトッと落として放ってけと誤魔化すぞ。
寒いッ!
魔王ッ!
鉄拳は止めろ、鉄拳はな。メルさんよ。頼むよ。ツッコミは、お手柔らかにだ。
つうか。
ジュンよ。そのジト目はなんだ。まるで汚いものでも見るような正義マンな表情はな。てか、なにか言え。頼むから。なにか言えって。無言でのジト目ほどキツいものはない。つうか、グリコ、お前までジト目ではないか。頼む。止めてくれ。
止めろ。
止めるんだ。まず間違いなく死にたくなるからな。俺様が。頼む。
死にたくなるから。マジで死にたくなるから。
アハハ。
えへっ!
魔王、もう一回、体に教え込むわさ。寒いギャグを言うと、どうなるのかをね。
だからメルさん、鉄拳は止めれ。止めれって。
ふふふ。
そうだね。うん。分かったよ。分かった。……ごめんね。心配かけちゃってさ。
とグリコと呼ばれた少女は静かにも微笑んだ。
*****
こちらの作品では、絵の練習の為、落書きを添えていきます。
全話ではありませんが、たまに気が向いたらです。
それと、もし、この作品に反響がありば、やる気満々になって。
ものすげぇイラスト〔本当か?〕を添えるかもです。
少なくとも気合いをいれたものを添えます。
喧嘩する、メルさん〔スカートバージョン〕と魔王〔スーツバージョン〕。
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