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VS勇者・2ラウンド②
俺と勇者が食材さがしからもどったとき。
「おかえりなさい!」と急に立ち上がった黒魔導師が、くじいた足に痛みが走ったようで、倒れそうに。
すかさず俺が豊満な胸ごと受けとめて、だいじには至らなかったものを、その直後。
これまた急に勇者がすっころんで、地面に突っ伏し、涙目で俺を見上げたもので。
その瞬間、ぴんときた。
「俺を奪いあっているつもりで、こいつ、黒魔導師と張りあっているのか!」と。
黒魔導師が勇者狙いなのは明らかなれど、そう客観的に見れないほど「キー余所見しないで!」と頭に血を上らせているか、焦っているらしい。
いやいや、仲間の一人、格闘家と前から同じ対立構造になっているが!?
格闘家との浮気には、まったく気づいていないのか。
黒魔導師はだめでも格闘家はいいのか。
そこらへんの勇者の真意はさておき、そういえば、と思う。
女遊びをやめてから、白魔導師以外の女と縁がなかったなと。
勇者のイケメンオーラにかすんで「はんっ、チャラい踊り子なんて」と見向きもされなかったのと、呪われた身なのが悲しくて、俺のほうも避けていたのかも。
で、俺が踊り子として転生してから、これほど長時間、女と共にいるのは、ほぼ初めて。
勇者にしても、久しぶりに俺と女が接するのを目にしたはずで、その光景にとり乱しているのなら・・・。
そう、勇者はかつての格闘家のような心理に陥っているわけだ。
「勇者の顔に泥を塗るな!」とつっかかってきた格闘家には、隠れた本音、俺が遊ぶ女への嫉妬があった。
今の勇者の場合は、嫉妬というか「また女遊びを再開するのでは?」との不安。
「彼女にキーがとられちゃう!」との危機感に追いつめられているのだろう。
「く・・・!世の女をすべて落として、スーパーハーレムも作れるだろう、天下のモテ勇者がなんちゅう、いじらしい・・・!」
うかつにも胸をときめかせつつ、勇者の心境を理解したならば、早早に対処したもので。
それまでは黒魔導師の顔色をうかがい、協力はせずとも、機嫌をそこなわせないよう、勇者との間をとりもっていたのは中止。
馴れ馴れしくせず、そっけなくもせず、その中間の加減でやりとりをし、必要もなく近づかず、話しかけず。
ビジネスライクに接したつもりが、黒魔導師には、なにか勘づかれたらしく、途中から俺を睨みつけるように。
「運命って不思議ですよねえ。
わたしが一番はじめに勇者さまと会えていたら、踊り子さん、今ここいはいなかったかもしれませんねえ?」
「そろそろパーティーの入れ替えをしてもいいんじゃないですかあ?
能力の低い人にぬけてもらって、有能な仲間を迎えいれないと、魔王には勝てませんでしょうしい。
あ、べつに踊り子さんと私のこと、云っているんじゃないですよお?」
会話中になにかと、ちくちく針で突くようなイヤミ攻撃もしてきやがって。
急所をついてくるから、ぐうの音もなかったものを、とはいえ逆効果で、勇者をむっとさせていたが。
おかげで「キーはあげないんだから!」と神経をとがらせなくもなったし。
俺と黒魔導師が親しくするより(俺は敵視していないが)いがみあうほうが、安心できるのだろう。
俺にしたら、いい迷惑。
筋ちがいに八つ当たりされまくったものだが、ケンカを買うことなく、無抵抗にサウンドバックに甘んじた。
ただでさえ、団結している勇者一行の実態は、修羅場一歩手前なのだ。
これ以上、問題を持ちこみたくなく、一応、白魔導師の顔も立てないと。
「この味噌っかすのせいで、勇者さまとお近づきになれなかった!」と恨まれて上等。
そうして俺が悪者になれば、お高くとまった黒魔導師のプライドを傷つけないで済むし、勇者の株も下げないし。
などなど考えを巡らせつつ「いやいや、決して勇者のためじゃねーし!」と自分で自分にツッコみつつ、目障りな邪魔者役に徹して、なんとか就寝までこぎつけた。
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