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VS勇者・2ラウンド①
旅の道中、木木が鬱蒼とした広大な森で迷ってしまった。
俺が足を滑らせ、そのまま土の柔らかい斜面に引きずられてしまい。
すかさず手首をつかんだ勇者も道づれに、かなりの高さをころげ落ちていった。
さいわい、擦り傷以上の怪我を負わず。
ただ、顔を上げても格闘家と白魔導師は見えないで、声も届かないほど、はなればなれに。
半日、探しまわっても合流できないまま、日暮れ近くになった。
日が落ちた暗い森で、白魔導師のような魔法でサポートしてくれる人抜きで、二人だけでうろつくの危ない。
との判断で、野宿する場を探して、魔物が出現しやすい夜を迎えるための準備をしていたら。
火にかける乾いた小枝を集めている途中で、足をくじいた女の黒魔導師と遭遇。
ぼんっきゅっぼんのナイスバディに、水着のような露出度が高い装束、ロングブーツ、マント、三角帽子。
おまけに眼鏡。
と、ゲームのいかにも男受けを狙った「戦闘に不向きすぎだろ」とツッコみたくなるような、非現実的な風貌の美女キャラだ。
前世の俺なら、うっほほーいと手放しで歓迎して「ワンナイトだけでも!」と下心を疼かせるところ。
前世の恋人に呪われた哀れな身とあっては、豊満な胸の谷間にも、張りのある半ケツにも股間はしーん。
分かりきったこととはいえ「呪いがなければ・・・」と悔しいからこそ、フェロモンむんむんな美女を前にして、やるせないったらない。
まあ、俺がやきもきしたところで、どうせ黒魔導師からしたらアウトオブ眼中。
彼女のほうが下心剥きだしに、勇者をガン見ロックオン中だ。
そりゃあ、勇者はモテる。
肩書を知っただけで、目の色を変えて群がる女がわんさか。
おまけに、金髪に青い瞳をした白馬の王子様的ビジュアルとなれば、どれだけの女が心を撃ちぬかれるやら。
人懐こい、温厚、情け深い、紳士と人柄も申し分なく、お人好しで、すこし抜けているときたもんで隙がない。
踊り子もイケメンでセクシーとはいえ、勇者のような完全無欠、正真正銘の男前がそばにいると「半端だなあ」と自分でも思うほど、見劣りしまくり。
女遊びをやめてからはとくに、色男ぶりは鳴りをひそめて、今や冴えないモブキャラ扱い。
前にモテていたのにしろ、体目当てや、勇者目当てだったのかも。
まあ、ちゃらんぽらんな遊び人は、所詮、絶対的主役な勇者の引き立て役。
といって、そのことが不名誉だと歯ぎしりはしない。
勇者と自分を比べて「神よ・・・」と嘆くことはあっても、雲泥の差があれば、やっかむのも馬鹿らしくなる。
前世の俺の記録、五股を超えたら、多少はもやもやするかもしれないが、あの勇者だし。
サイコパスな一面もありつつ、表向き、白魔導師一筋だし。
フェラをするのも、俺限定のようだし。
てなわけで、エロ美女黒魔導師にガン無視されても気にすることなく「まあ、せいぜいガンバレや」と冷めていたほどだが、意外なことに勇者のほうが調子を狂わせた。
とくかく、俺から一時も放れない。
トイレにまでついてきて「赤ちゃんか!」とツッコんだほど。
豊満な胸を見よがしに突きだし、あざとくアプローチしてくるのに、俺を盾にして、顔を半分覗かせ、猫のように警戒。
「ねえ、そう思いませんかあ?」と背中を覗きこみ、声をかけられても「そうだなあ。キーはどう?」と必ず、俺に仲介をさせ、直接、受けこたえせず。
どれだけ世の人人がもてはやす、ご立派な勇者といっても、高校生くらいの年となれば初心。
色っぽい大人の女を前に、照れちゃって、まごついちゃってかわいー。
とは思わない。
幼少から容姿端麗さを「天使」と賞賛されていた勇者は、女慣れしていて、対応も心得たもの。
だから、これまで数えきれないほど云いよられ、誘惑されてきたものの、変な女に引っかからず、トラブルも起こさなかった。
そばで白魔導師が(笑っていない目で)にこにこしていたのも、利いたのだろう。
鉄壁虫除けのような白魔導師の不在が、勇者を不安定にしているのか。
それにしても「初心というか、人見知りしだした幼子みたいじゃね?」と釈然としなかったのが、すぐに謎は解けた。
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