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「勿論、何があったんだろうとは思っていますよ。でも、それよりも今はのりこさんが早く着替えて髪を乾かす方が先決です」
隣でまだ高校生の筈のあきらくんが随分と大人っぽく見えた。
その優しい口調に気持ちが緩む。
「…ありがと」
泣きながらそう答える。
それからあきらくんは何も言わずに傘をさしながら、泣く私の隣を歩いてくれていた。
マンションに着くと少し急ぎ気味に自分の部屋を目指す。
ずぶ濡れな上にあきらくんと一緒だ。
誰かに出会うことは避けたい。
そして、無事に誰にも見られることなく部屋に到着した。
玄関の鍵はあきらくんが開けてくれる。
それを後ろで眺めながら、なんか不思議な気分を味わっていた。
「どうぞ」
あきらくんが玄関のドアを開けて、先に私を中に入れてくれる。
思わず、お邪魔しますと言いかけた。
びしょ濡れだけど、自分の部屋だし気にせずに玄関の電気をつけて中へと上がる。
真っ暗のリビングに行くと、あきらくんがすぐに電気をつけてくれた。
すると、テーブルには食器が用意されているのが目に入る。
いつものように晩御飯の用意をしてくれていたのだ。
その優しさに思わず口角だけ上げる。
そして、私は床に鞄を置き、上着を脱いだ。
「のりこさんタオルはどこにありますか?」
後ろからあきらくんに訊かれて振り返る。
すると、至近距離で目が合った。
いつもなら、目を逸らすも今は何故か視線が離せない。
「…洗面所の上の棚に入ってる」
彼の目を見つめながら答えた。
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