第三章 夢の形、愛のカタチ

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 そのほかの一品料理は、ディジョンマスタードを使ったキャロットラペ、ガレットやキッシュといった家庭料理。佳生が気に入っているチーズやナッツ類の燻製、牛肉の赤ワイン煮やローストポークなどの肉料理をいくつかと、サーモンとクリームチーズのカナッペやオムライス。目新しさはないが、食べた人が笑顔になる料理を作りたい。  大人様ランチは『ウェロプレート』としてメニューにのせる。佳生のリクエストで、フレッシュトマトを使ったナポリタンを追加した一皿だ。 「これは一日5食限定。ご褒美感をだして、大人が満足するうまいやつを。その他のメニューのバリエーションはその都度、旬の食材で考えたらどうかな」  佳生の提案に僕も異論はない。 「一品でお腹いっぱいになるようなものや、和食っぽいメニューもいれてみたい」 「体力次第で昼営業も考えるか。ネットやその他の情報発信は俺がやる。小料理屋でもホスト時代にも散々やってきたから」  もとより最初は赤字覚悟だ。やれることは何でもやる。  佳生はカクテルだけでなく、ビールなどの酒のバリエーションを充実させている。外国の珍しい銘柄は瓶を眺めているだけで気分が浮き立つ。  店内はウッディな設えにレトロなペンダントライトを吊るした。天然木の美しさを活かしテーブルランナーを敷く。小さな花を飾れば我が家に帰ったような雰囲気もでるはずだ。気軽に立ち寄れる店になるといい。  ちょっとした諍いもあった。  佳生が「店名はダイニングバー・ウェロだ」と言いだしたのだ。「朋希がシェフになる夢に、俺のほうが乗っかったんだ。店主は朋希だ」 共同経営だがそこは譲らないと言い張る。  でも僕がその言葉に頷くよりも早く、ひとまわり大きな手に両手を包みこまれた。 「安心しろ、ずっと一緒だから。どんなときだろうと一人きりにはさせない」  僕たちはこれまでも様々な約束をした。約束に支えられて歩いてきたのだ。  目と目を見交わしながら、僕は胸のまんなかに佳生の言葉を置いた。
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