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「──ア。ねえロア? いきなりどうしたんだ?」
急にフラッツの声が耳に戻ってきた。
ロアはあわててふりむいた。
不愉快な相手とはいえ、話している途中で無視するという自分の非常識ぶりにうろたえてしまう。
「あ、す、すみません。あの、ちょっと急用を思い出しまして……失礼いたしました」
フラッツは顔をしかめていた。
「ああ、さすがに傷ついた。──だからお詫びにつきあってくれるよね?」
彼が言うほど傷ついてはおらず、これが単なる口実だということはさすがにわかる。
それでも生来のきまじめさが顔を出し、ロアは揺らいだ。
(いまわたしが失礼なことをしてしまったのは間違いないし……)
舞台をひととおり見るだけのことだ。
だが、それこそ失礼な気がした──相手にも、そして自分自身にも。
「……いえ、それはどうか」
フラッツは鼻白んだ様子でロアを見やると、ふいと出て行った。
ロアは閉じた扉に頭を下げた。
それからまた懸命に台帳を調べはじめた。
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