7 別れの季節(1)

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 行き遅れの重くて変な女だと思っているなら、放っておいてほしい。  だがそんな女が誘いを受けないことで、かえって意地にさせてしまったのかもしれない。  フラッツはいきなり寂しげな笑みを浮かべてみせた。 「……実は、そろそろ騎士団の異動の時期なんだ。今年は団長や事務長がやたら忙しくしてるから、かなりの異動があるんじゃないかってうわさで」  と、さりげなくカウンターの上に乗り出して距離を詰めてくる。  ロアは反射的に身を引きかけたが、彼の言葉が気にかかって思いとどまった。 「異動、ですか?」 「そう。もしおれにほかの騎士団行きの辞令が下ったら、こうしてロアに会いに来るのも難しくなる」  それはかまわない、というよりぜひそうなってほしいところだ。  ただ、絶対に異動してほしくない人がいる。 (まさか、アルドス先生──)  ──だから、ロアと楽しい思い出を作りたいんだ。だめかな?  フラッツのそんな言葉はもう耳に入っていない。  ロアは椅子を立ち、棚の注文台帳を取ってあわただしく繰った。  騎士団からの注文数は以前と同じくらいだが、アルドスの注文らしき本はまったくない。 (異動をひかえているから注文しない、なんて……)  何か自分が見落としていないか、ロアは目をこらしてまた台帳を確認した。  それでもやはりアルドスの気配は感じられなかった。
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