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7 別れの季節(2)
従僕のマルテルが執務室におっかなびっくり木箱を運んできた。
テスカードは書類から目をあげ、従僕に尋ねた。
「それはなんだ、マルテル?」
「はい、オードバルド家からテスカード団長への贈り物です。この前の菓子を返すよう言われたとき、では団長は何ならお好きなのかと尋ねられましたので葡萄酒と答えておきました。ですので葡萄酒です」
マルテルはいかにもいいことをしたといった満足顔で答えた。
「……物の種類ではなく、贈品自体が不要と言わなかったか。丁重に返してくれ」
帝立劇場での一件から少しして、テスカード宛に手紙が届いた。
オードバルド家令嬢イルーゼからの礼状だった。
あのときテスカードが名乗らなかったのは、すべてを秘密のうちに終わらせるという意思表示だ。
貴族社会で育っている者には十分伝わるはずなのだが。
「え、でも、帝都の安全を守るレインハルト騎士団の騎士団長にぜひお礼を、とのことで」
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