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思い出を道標に⑱
シンシアは、まだ計算し切れていない売り上げの一部として、少しばかりの代金を手にした。
「一生懸命働いてもらえるお金って、金額じゃなく価値があるね」
小さな袋に頬擦りするシンシアを、ケヴィンは屋敷まで送った。荷馬車に乗せてその日あった何気ない出来事を話す。
楽しかったこと。腹が立ったこと。面白かったこと。悩んだこと。
ケヴィンにとってそれは短くても大切な時間。
そして切ない時間でもあった。こうしていると、胸にある想いを伝えてしまいたい衝動に駆られる。
「なあ、シンシア」
「どうしたの?」
あどけない返事に、自分の想いなど告白したところでシンシアには届かないのだろうと躊躇して
「……いや、渡した金、ジョージに取られるなよ」
違う話題を振った。
「うん。木の根っこのところに埋めようと思ってる。これはお母様の大事な薬代だもの」
こういう時のシンシアは穏やかだ。
男と2人きりだというのに、すっかり安心し切っているのが分かる。
「信頼されすぎるのも辛いな。男として見られていないもんな」
「何の話?」
「……娘さんたちの恋の話だよ。みんな叶うといいな」
「ケヴィンはモテるから、もっと周りの子を見てあげた方がいいよ。手伝ってくれた女の子たちも、ケヴィンが喜ぶんだったらって引き受けてくれた子がたくさん居たし」
「……そうだな」
心なしかケヴィンの返事は小さかったように思えた。
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