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沈黙が怖い 月4万円のボロアパートに見合わないハイブランドのスーツを着た彼がいる 目を合わせることが出来なくて、テーブルの下、膝の上で強く握り締めた手を見てやり過ごそうとする 二度と会わないと思っていた あの街から離れた場所に引っ越したし、誰にもここに住んでる事は知らせてないのに… なんで…どうして… 考えても答えの出ない疑問が次から次へと溢れ出てくる 沈黙に耐えかねてそっと顔を上げると、ジッと睨むようにこちらを見ている彼と目が合ってしまった つい反射的に目をギュッと閉じてまた俯いていると、「はぁぁぁ…」と呆れたように溜息を吐き出す声が聞こえる そんな沈黙を打ち砕くように、息子の拓が楽しそうな声を上げて、彼に話しかけている 「おいたん、あのね。これ、たくのだいしゅきなの。パパがたくにつくってくえたの」 タオルと輪ゴムで作ったクマのぬいぐるみ 貰い物の白いタオルで作っただけだから味気なくて、貰い物のお菓子に付いていたリボンを首に巻いただけの簡単な物 ぬいぐるみを買うお金もないし、洗濯するのも簡単だからオレが作ってあげたもの 本当はもっとちゃんとした物を買ってあげたいけど、今のオレに出来ることはそれくらいしかなくて… そんな物でも大切そうに自慢する息子を見て、胸が痛くなる あんなボロボロのぬいぐるみ、見せないで欲しい… でも、あんなぬいぐるみでも喜んでくれる拓が愛しくて、胸が苦しくなる 「そっかぁ~、お前のパパは優しいんだな。 俺の名前は拓也だ。拓、お前と俺はお揃いの名前だな」 息子の頭を優しく撫で、抱き上げて膝の上に座らせながらぬいぐるみで遊んでくれている彼を見て胸が締め付けられる 拓も初めて来たお客さんが嬉しいのか、いつもよりもテンションが高くて、キャッキャッと嬉しそうな声を上げている それなのに、オレはひとり絶望の淵に立たされている気分だった 気付かれたくなかった 知られたくなかった 初めて会ったはずなのに、拓の懐きようを見て血の気が引くのがわかる 「コータ、この子は俺の子だよな?」 彼の笑顔なのに、凍えるような冷たい声にどんどん指先が冷たくなるのを感じる 「ち、ちがっ…」 「違わないよな?3歳ってことは、お前が俺の前から居なくなった時とも計算が合うよな?」 彼の視線が怖くて仕方ない 否定してみたけど、バレてしまっているから… 怖くて声が出ない 俯いて、この沈黙が終わるのをただひたすらに耐える 髪色はオレに似て淡い茶色だけど、どう見ても拓也の子だとわかってしまうくらい似ている 目元とか特にそっくりだし… 産まれた瞬間から、似てると思った 彼への気持ちに蓋をしたはずなのに、この子の顔を見た瞬間、好きだったんだと自覚してしまった この子が拓也の子で良かったって、心から思ってしまった 好きで、愛していて、ずっと一緒にいて、番になりたかった 叶わない気持ちに再度蓋をしようとしたが、この子の顔を見ていると、どうしても溢れ出してしまう 諦めなきゃいけないのに… もう二度と会わないって決めたのに… 二人だけで生きていくって、決めたのに… この子の顔を見るだけで、拓也への気持ちが溢れ出てきてしまう 面影を追うように、未練がましく息子の名前を『拓』と名付けてしまった
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