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どうしよう… 逃げるなって言われた 片付けろって言われた… 迎えに来るって…誰を? 拓を、迎えに来るってコト…? 彼が帰った後、泣き止んだ息子を抱きしめたまま彼に言われた事を反芻する 小さく震える手でギュッと強く拓を抱きしめると、不思議そうに頭を撫でてくれた 「ぱぁーぱ?いたいいたい?」 オレが泣いているのをどこか怪我をしたと思ったのか優しく慰めてくれる 「大丈夫。大丈夫だから…」 でも、どうしよう… 一番嫌な結果になってしまった 拓を彼に取られてしまう 勝手に産んでしまったから… でも、彼のところにいけば、拓はずっと幸せになれるかも 好きなモノを買って、お腹いっぱいまで美味しいモノを食べれるかも 拓の幸せを願うなら、オレと一緒にいない方が… グルグルと回る負の感情に胸が締め付けられる 「パパ、おなかすいたぁ」 空腹を訴える息子にハッと意識が戻り、慌てていつもの笑顔を作る 「ごめんごめん。ご飯、しよっか 拓、おてて洗おうね。あと、さっき出来なかったけど、ガラガラもしないと」 息子に手洗いなどをさせて、とりあえずスティックパンを渡して食べさせる あと、冷蔵庫に残っていたミックスベジタブルと鶏肉を使ってケチャップ炒めにして出してやる 嬉しそうに食べる姿を見て、ホッと息を吐き 「拓、美味しい?」 うんうんと何度も頷きながら食べる姿に愛しさが溢れる 明日の朝ごはん用におにぎりを作り、自分も拓の残した物を少しだけ食べる いつもの夕食 これが、いつもの状況… オレは、後でお店に行ったら何か貰えるかもしれないから 拓にはお腹いっぱい食べて欲しい ホントは、もっと好きな物とか果物も食べさせてあげたいけど… もう少し、お給料が増えてから… オレが仕事に行く時間までに家の事と拓を預かって貰う準備をする 夜勤の託児所はちょっと高いけど、預かって貰わなきゃ働けないから… 「パパ…たく、おなかすいたぁ…」 さっきご飯を食べたのに、それだけでは足りなかったのかお腹を撫でている息子の姿に胸が押し潰されそうになる 「あ、ごめんな。拓、何食べたい?何か、残ってたかな…」 明日の朝ごはん用に置いておいたおにぎりを出して渡すと美味しそうに齧り付く もりもりと食べる姿に癒されるものの、これからの成長のことを思うと不安になってくる オレの今の稼ぎだけじゃ、拓をちゃんと育てられなくなる… 拓には、しあわせになって欲しい… オレの我儘で、我慢させるのは親として失格だよな… いつもの深夜の清掃バイトを終わらせ、家に帰り着いたのは夜中の3時だった 熟睡している拓を布団に寝かせる お気に入りのタオルで作ったクマのぬいぐるみを抱き締めて眠る姿に胸が痛む 意を決して、拓の荷物をまとめ始めた 買ってあげられたものは少ないし、今ある分は全部捨てられて買い直されるかもしれない。それでも、拓のお気に入りの服やおもちゃ、タオルなどを小さめのボストンバックに入れていく 全部入れたはずなのに、ボストンバックは満杯にならなくて、荷物の少なさに寂しさが込み上げてくる 「これだけしかないんだ…オレじゃ、やっぱり拓をしあわせにしてあげれないのかな…」 自分の不甲斐なさに涙が止まらない 今日が最後な気がして、息子の手を握って眠りについた
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