ましゅまろとパニック

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ましゅまろとパニック

「あーあーあー! とまってくださーい! このとおりおねがいしますのでー! あーあーあー!」  夜、お風呂から上がってリビングに戻ると、真白が床にうずくまって叫んでいた。不思議に思い近づいてみると、クッションをお腹に挟んで丸まっているだけで、何をしているのかはよく分からない。お腹が痛いのかとも思ったが、叫んでる言葉からそういう訳でもなさそうだ。 「あーあーあー! ごめんなさいしますからー!」 「真白どうしたの?」  声をかけてみたがパニックになっているのか、私の声はまったく聞こえてないようだ。しゃがんでもっと顔を近づけると、ようやく真白が丸まっている理由が分かった。真白が挟んでいるクッションの辺りからピヨピヨピヨピヨとくぐもった音が鳴っている。これは真白に持たせている防犯ブザーの音だ。きっと、何かの拍子にピンが抜けてブザーが鳴ってしまい、パニックになった末クッションで挟むことを思いついたのだろう。 「ほら、真白貸して」 「あ、みおちゃん」  クッションに挟まれていた防犯ブザーを取り出して、抜けていたピンをカチリと挿し込んだ。大きな音を発していたブザーが鳴り止むと、真白は大きく息を吐きだして胸を撫で下ろす。 「みおちゃん、ありがとうございのです。ましろはもうだめかとおもいました」 「これは真白を守ってくれるものなんだから。それに止め方は教えたでしょ?」 「それはそうなんですけど、おおきなおとがなるとましろもぱにっくになってしまうのです」  防犯ブザーの音は特に悪いことをしていなくても、聞こえたらドキドキしてしまうため真白の気持ちも分からないでもない。でも止め方が分からないと今みたいにふとした瞬間に外れて周りに迷惑をかけてしまうこともある。きっちりと止め方を教えておかないと。 「いい? 音を鳴らすにはこのピンを引っ張るの。音を止めるにはこのピンをカチって挿し込むの。やってみて」  この防犯ブザーは比較的扱いやすいタイプだ。ピンが完全に抜けてしまうタイプではなく、途中までしか抜けないようになっている。だから紛失の心配もないし、止めるのも簡単なのだ。 「これをひっぱ――」  ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ! 「あーあーあー! ごめんなさいしますからー!」  またブザーをクッションに挟んで丸くなる。だいたい防犯ブザーを持ってる側の真白が謝ってどうするのか。でも止め方が分からないままではいけないため、もう一度クッションからブザーを取り出して止める。 「もう。ちゃんと覚えないとダメだよ?」  パニックになっても大丈夫なように、しっかりと真白を後ろから支える。小さな真白の手に私の手を重ね、ブザーの止め方を覚えるまで何度も練習したのだった。
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