17人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
法力
隊員たちはそのまま自主訓練を始めた。
僧侶で水属性のヴィータが、プロテクトについて話している。
長い髪を下ろし、僧侶である印の帽子を被っている。
きっちりした法衣をまとい、肌は露出していないが、かなりスタイルは良い。
「シータ様のプロテクトが弱いのは、魔力のプロテクトをやろうとしているのに、オーンが混じっているからです。これだと悪いとこどりで、強度が弱い上に防御が遅れます。純粋なオーンのプロテクトを、素早く作る練習をなさればいいですわ」
彼女の説明を聞いて、隊員たちは納得している。
みんな、オーンと魔力の違いがちゃんとわかるらしい。
「ウェン、話についてきてるか?」
「ああ、大丈夫だよ! お前にいちいちお世話にならないように、がんばってるからな」
「じゃあステップアップだ。俺の首にヒーリングしてみろ」
俺とアッシュとルルシェは地べたに座った。
アッシュの首には、スタジアムでつけた傷がある。
ウェンはアッシュの首に手をかざした。
アッシュはさらにウェンの手に自分の手を重ね、首を触らせた。
「…………………………」
「…………………………」
「お前、ふざけてんのか。ヒーリングになってないだろ」
「ご、ごめん。実はヒーリングは見よう見真似で本当に浅い傷しか治せないんだ」
ルルシェは笑った。
「ウェン様って可愛らしい方なんですね」
「す、すみません……」
「謝ってすむことじゃないだろ。じゃあ、やり方を教えてやるよ」
アッシュは触れていたウェンの手を取り地面につけると、いつも自分の手を切っているナイフの魔道具を取り出し、ウェンの手を突き刺した。
「いっ……たぁ……!」
なんでこいつは躊躇いなく人を傷つけられるんだ。
「傷口のオーンはどうなってる?」
「……穴が空いて、オーンが漏れ出てる……」
「そうだ。オーンが傷つくと、オーンが漏れ出して、オーンが枯渇すれば死だ。ヒーリングの根本は、オーンを修復することだ。今やってやるから、感じろよ」
アッシュはウェンの手を取り、傷口を舐め始めた。
チュッとか、ネチャ……とかいう音がする。
オーンを感じたくても、アッシュの唇や舌の感触が気になって集中できない。
「ルルシェ様、ヒーリングはこうやって舐めないといけないんですか?」
「いえ、必要ないですわ」
「必要ないって!」
ウェンは手を取り上げた。
「教わるんだから、少しくらいサービスしろよ」
「いや! 集中できなくてよくわからなかったよ!」
「んじゃ、もう一回だな」
アッシュは今度は単に手をかざした。
アッシュのオーンがウェンのオーンの穴に集まり、穴が塞がる。
「うん……今ならわかる」
「じゃあ、俺の首元のオーンの状態をみろ」
触れると、アッシュの首のオーンは深くえぐれている。
「ここに、お前のオーンを流せ」
ウェンは自分の武器に”気”を流すイメージで、やってみた。
「ウェン様、いい感じです。」
ルルシェが励ます。
「……じゃあ、次はあの、オーンを拡散するイメージでやってみろ。」
拡散型は花や雪のような自然をイメージするとやりやすい。
アッシュの首に花びらが降るイメージを想像した。
「…………………………」
アッシュは急に上体を倒した。
ルルシェが支え、ゆっくり膝枕をした。
アッシュは眠っている。
「……一体何が……??」
「アシュラス様が眠ってしまうほど、ウェン様のヒーリングが効いているのです」
「そうなんですか?信じられない……」
ウェンは自分の手をまじまじと見た。
♢♢♢
アシュラスは薄っすらと目を開けた。
「意識を持っていかれた……凄まじい力だな……」
「ウェン様の拡散型のオーンは、龍人族でいう”法力”に近いと思います。その人独自の魂の力がオーン。さらにそれを高める修行をすることで法力になります」
「そうなのか……あまりすごい修行をした覚えはないけど………」
「聖典『武』に記されている、修行の基本の”キ”に当たるものはなんだ?」
アッシュは膝枕されたままウェンに言った。
「”規律ある生活”と”瞑想”だよ」
「お前はそれをどれくらい熱心にやってる?」
「当たり前に毎日だよ」
「お前の他に、それをやっている、と言える隊員は誰だ?」
「ラムズとトト、後はさっきのシータだ。」
「やっぱりな。強い順だ」
「どういうことだ?」
ルルシェは、膝枕されているアッシュの頭を撫でながら言った。
「法力は、自然と一体になればなるほど高まります。生活の規律と瞑想をしている人間の状態が自然と調和すると、宇宙の無限の力を循環させ、法力として使うことができるようになります」
「なるほど……。生活と瞑想は、簡単だけど地味なことだから、訓練校で教わっても続けられない隊員が多いんだ。法力についてはわかったよ。ただ、シータについてはどうなんだろう……。他の隊員の方が強そうだけど」
アッシュが口を開いた。
「もし敵がオーンや法力の手練れだけだったら、戦えるのは、お前、ラムズ、トト、シータだけだってことだ」
そうか。
今までは魔力だけを使う敵も多かったから、オーンや法力の修行をしてない隊員も戦えたのだ。
「なんか……色々わかってきて嬉しいよ」
ウェンはまた自分の手を見つめてつぶやいた。
今までの孤独な修行に意味があったことを知って、感慨深い。
「ウェン様、聖典では、女人との関係はどのように書かれていますか?」
「まあ、みだりに関係をもたないとか、一般的なことしか書いてなかったような」
「それなら良かったです。生活の中で女人を排除するよう書かれていたのかと」
「そんなことはありません。でも、なんでそう思ったのですか?」
「ウェン様は、まだ女人との経験がなさそうだったので」
アッシュが驚いた様子で起き上がった。
「お前、童貞だったのか……!」
「しょ、しょうがないだろ! 機会が無かったんだから!」
なんでルルシェにバレたんだろう……
「強いけど、アホで童貞か……。可愛いな」
「可愛いですね」
アッシュとルルシェは笑っているが、ウェンは恥ずかしさでいたたまれなかった。
最初のコメントを投稿しよう!