法力

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法力

隊員たちはそのまま自主訓練を始めた。 僧侶で水属性のヴィータが、プロテクトについて話している。 長い髪を下ろし、僧侶である印の帽子を被っている。 きっちりした法衣をまとい、肌は露出していないが、かなりスタイルは良い。 「シータ様のプロテクトが弱いのは、魔力のプロテクトをやろうとしているのに、オーンが混じっているからです。これだと悪いとこどりで、強度が弱い上に防御が遅れます。純粋なオーンのプロテクトを、素早く作る練習をなさればいいですわ」 彼女の説明を聞いて、隊員たちは納得している。 みんな、オーンと魔力の違いがちゃんとわかるらしい。 「ウェン、話についてきてるか?」 「ああ、大丈夫だよ! お前にいちいちお世話にならないように、がんばってるからな」 「じゃあステップアップだ。俺の首にヒーリングしてみろ」 俺とアッシュとルルシェは地べたに座った。 アッシュの首には、スタジアムでつけた傷がある。 ウェンはアッシュの首に手をかざした。 アッシュはさらにウェンの手に自分の手を重ね、首を触らせた。 「…………………………」 「…………………………」 「お前、ふざけてんのか。ヒーリングになってないだろ」 「ご、ごめん。実はヒーリングは見よう見真似で本当に浅い傷しか治せないんだ」 ルルシェは笑った。 「ウェン様って可愛らしい方なんですね」 「す、すみません……」 「謝ってすむことじゃないだろ。じゃあ、やり方を教えてやるよ」 アッシュは触れていたウェンの手を取り地面につけると、いつも自分の手を切っているナイフの魔道具を取り出し、ウェンの手を突き刺した。 「いっ……たぁ……!」 なんでこいつは躊躇いなく人を傷つけられるんだ。 「傷口のオーンはどうなってる?」 「……穴が空いて、オーンが漏れ出てる……」 「そうだ。オーンが傷つくと、オーンが漏れ出して、オーンが枯渇すれば死だ。ヒーリングの根本は、オーンを修復することだ。今やってやるから、感じろよ」 アッシュはウェンの手を取り、傷口を舐め始めた。 チュッとか、ネチャ……とかいう音がする。 オーンを感じたくても、アッシュの唇や舌の感触が気になって集中できない。 「ルルシェ様、ヒーリングはこうやって舐めないといけないんですか?」 「いえ、必要ないですわ」 「必要ないって!」 ウェンは手を取り上げた。 「教わるんだから、少しくらいサービスしろよ」 「いや! 集中できなくてよくわからなかったよ!」 「んじゃ、もう一回だな」 アッシュは今度は単に手をかざした。 アッシュのオーンがウェンのオーンの穴に集まり、穴が塞がる。 「うん……今ならわかる」 「じゃあ、俺の首元のオーンの状態をみろ」 触れると、アッシュの首のオーンは深くえぐれている。 「ここに、お前のオーンを流せ」 ウェンは自分の武器に”気”を流すイメージで、やってみた。 「ウェン様、いい感じです。」 ルルシェが励ます。 「……じゃあ、次はあの、オーンを拡散するイメージでやってみろ。」 拡散型は花や雪のような自然をイメージするとやりやすい。 アッシュの首に花びらが降るイメージを想像した。 「…………………………」 アッシュは急に上体を倒した。 ルルシェが支え、ゆっくり膝枕をした。 アッシュは眠っている。 「……一体何が……??」 「アシュラス様が眠ってしまうほど、ウェン様のヒーリングが効いているのです」 「そうなんですか?信じられない……」 ウェンは自分の手をまじまじと見た。 ♢♢♢ アシュラスは薄っすらと目を開けた。 「意識を持っていかれた……凄まじい力だな……」 「ウェン様の拡散型のオーンは、龍人族でいう”法力”に近いと思います。その人独自の魂の力がオーン。さらにそれを高める修行をすることで法力になります」 「そうなのか……あまりすごい修行をした覚えはないけど………」 「聖典『武』に記されている、修行の基本の”キ”に当たるものはなんだ?」 アッシュは膝枕されたままウェンに言った。 「”規律ある生活”と”瞑想”だよ」 「お前はそれをどれくらい熱心にやってる?」 「当たり前に毎日だよ」 「お前の他に、それをやっている、と言える隊員は誰だ?」 「ラムズとトト、後はさっきのシータだ。」 「やっぱりな。強い順だ」 「どういうことだ?」 ルルシェは、膝枕されているアッシュの頭を撫でながら言った。 「法力は、自然と一体になればなるほど高まります。生活の規律と瞑想をしている人間の状態が自然と調和すると、宇宙の無限の力を循環させ、法力として使うことができるようになります」 「なるほど……。生活と瞑想は、簡単だけど地味なことだから、訓練校で教わっても続けられない隊員が多いんだ。法力についてはわかったよ。ただ、シータについてはどうなんだろう……。他の隊員の方が強そうだけど」  アッシュが口を開いた。 「もし敵がオーンや法力の手練れだけだったら、戦えるのは、お前、ラムズ、トト、シータだけだってことだ」 そうか。 今までは魔力だけを使う敵も多かったから、オーンや法力の修行をしてない隊員も戦えたのだ。 「なんか……色々わかってきて嬉しいよ」 ウェンはまた自分の手を見つめてつぶやいた。 今までの孤独な修行に意味があったことを知って、感慨深い。 「ウェン様、聖典では、女人との関係はどのように書かれていますか?」 「まあ、みだりに関係をもたないとか、一般的なことしか書いてなかったような」 「それなら良かったです。生活の中で女人を排除するよう書かれていたのかと」 「そんなことはありません。でも、なんでそう思ったのですか?」 「ウェン様は、まだ女人との経験がなさそうだったので」 アッシュが驚いた様子で起き上がった。 「お前、童貞だったのか……!」 「しょ、しょうがないだろ! 機会が無かったんだから!」 なんでルルシェにバレたんだろう…… 「強いけど、アホで童貞か……。可愛いな」 「可愛いですね」 アッシュとルルシェは笑っているが、ウェンは恥ずかしさでいたたまれなかった。
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