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火照る理由
僕が月華の世話役になったことに反感を持つ花は多いものの、蕾の着物を着て、月華に厳しく当たられている僕の姿を見ると皆、あざ笑うようになってきた。
最近では、監視するような橘さんの視線を感じる回数も減っている。
「ごめんな。今日もきつい言い方をして」
「ううん。平気だよ」
表面上はあくまでも「大輪」と「使い道のないケダモノ蕾」
そうやって廓の皆の目を欺いているけれど、部屋の中で二人になれば月華はとても優しい。外できついといっても乱暴を働くこともないし、気性の荒い大輪だともっと蕾に厳しい人もいる。
それよりも僕がきついのは……。
「そろそろ客が来る時間だな」
「うん……」
月華の褥仕事の時間だ。
僕は月華が褥仕事をしている間、続きの間で控えているから様子が聞こえてくる。衣擦れや肌がぶつかる音、月華の、甘い囁き声や嬌声。お芝居だってわかっていても聞くのは辛い。
「あぁん、月華様ぁ、もっと強く抱いてください」
「かわいいですね。ここがいいですか?」
今夜は抱かれる側が希望のお客様だ。僕はこのお客様が登楼される夜が一番辛い。
「好きぃ、愛してる……月華様。僕だけの花になって!」
「私も好きですよ。あなただけだ」
いやだ、やめて。胸が苦しい。
月華のいつもの台詞なのに、胸がちりちりして燃えるように熱くなる。
────僕は最近おかしい。
幼い頃からあった、月華を誰にも触らせたくない気持ちが大きくなっている。月華がお客様を抱くのはもっと嫌だ。
優しい声で、優しい笑みで、優しい手で、他の誰かを触らないで!
「は……熱い……」
月華がお客様の肌を吸う音と、お客様のあえかな声をが聞こえると、全身が火照り、お腹がきゅうと疼いた。
「どうして、こんなところが……」
太ももの間の、淫らな欲を示す部分が硬くなっている。
月華の仕事中なのに、羞恥と混乱に襲われた僕は部屋を飛び出し雪隠に逃げ込んだ。でもうまく処理できない。時間経過に委ねておさまるのを待とうとしても、頭の中に忍び込んでくる月華の褥の様子に火照りがぶり返す。
お客様はお泊りではないからそろそろ戻らなきゃならない。蕾の着物の前結びの帯を整え、下半身を隠して部屋に戻った。
「毬也、どこに行ってた?」
「あっ……す、すみません! お客様のお見送りに間に合いませんでした」
廊下の反対側から部屋に戻ってくる月華に出くわした。
部屋の外では上下関係を徹底している月華なのに、声が心配そうだった。仕事中に僕が抜けるのは初めてだから心配をかけたのかもしれない。
「顔がずいぶん赤い。熱でもあるんじゃないか?」
部屋に入ると頬を包まれ、額をくっつけられた。
「ひゃっ……」
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