火照る理由

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 それだけのことなのに、肩が震えて肌が粟立つ。 「毬也?」  月華の息が唇をかすめた。胸が早鐘を打ち始め、お腹の下の方へ血液が集まってくる。 「や、駄目っ」  月華の胸を押したものの、腰が抜けて尻もちを着いてしまった。  唖然とした月華がすぐにしゃがみ「どうしたんだよ」と言いながら僕を起こそうと手を差し出して、止まった。 「毬也……そこ、熱くしてるのか?」  ……見られた!   転んだ拍子に着物の裾が開いている。下帯が異質に膨らみ、染みが滲んでいるのに。  恥ずかしくて声も出ない。急いで着物を直しながら、代わりに涙をぽろぽろと流してしまう。 「なにがあった? どうしてこんな。……とりあえず奥に入れよ。俺は横の部屋にいるから、処理しときな」  差し出してくれていた手が下げられる。立ち上がって背を向けられると、とても不安になった。 「行かないで……!」  月華の腰に手を回して背中にぶつかる。渾身の力だったせいか月華は体勢を崩し、僕もろとも畳に身を崩した。  僕が月華を押し倒し、長い片脚を跨ぐ姿勢になっている。蕾の着物は気崩れて、襟元が乱れてしまっていた。 「! ま、毬也、離れろっ」  僕のはだけた胸元を見た途端、月華は目を背ける。  だらしない姿の僕を醜いと思っているの?  「やだ、嫌だ。離れない。嫌いにならないで!」  体をぐいぐいと押し付けて、僕を引き剥がそうとする腕に抵抗した。 「嫌いなわけないだろ! そうじゃなくて俺、自制が……ぐ、うぅ」 「月華?」  耳と尻尾の毛が逆立ち、皮膚に毛が萌えた。月華の体が獣化し始める。  着物が自然に落ち、黒い縞がある真っ白な艶毛の体躯があらわになった。爪は大きく鋭く、唇からは光る牙が覗く。 「あっ!?」  虎……白い虎だ……! 物入れでみた月華も、見間違えじゃなくやっぱり虎だったんだ。
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